ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!③ ~エーコ怒りの鉄拳制裁編

ゆうすけ

キモさで勝負できるのは二十歳までよ! それを過ぎたら潔く死になさい!

 これは、この街に住む二人の幼女と、その小学校の担任の新任教師と、キモい男が繰り広げる物語である。


 ◇


「わーい。ぬいぐるみー!」

「待って、サヤカちゃん! なんかそのぬいぐるみ、怪しい! 触らないで!」

「サヤカがもーらいー!!」

「サヤカちゃん、だめーーーーー!」


 駆け出したサヤカをエーコが追いかける。サヤカはおかっぱの黒髪をなびかせてすたすたと走るが意外や意外、その逃げ足はかなりのスピードだ。まるで軍事学校のような施設で訓練されたかのような走りで、ぐんぐんと金髪ツインテールを振り乱すエーコを引き離していった。公園には夕陽が射しこんでいた。どこかで流れる夕焼け小焼けのオルゴールがふわりと耳を撫でた。


「サヤカちゃん、だめ! あれは絶対ヤバいよ。エーコの第六感にびんびんに響くの。お願いだから、触らないで!」

「そんなこと言ってエーコちゃん、独り占めするつもりなんでしょ? そうはいかないよー。サヤカ、ぬいぐるみゲットできるなら大阪湾に沈んでもいいもーん♡」


 軽やかな足取りで俊足を飛ばすサヤカにエーコは全然追いつけない。そうこうしているうちに、けつまずいて派手に顔面から地面に突っ込んでしまった。砂ぼこりが夕暮れの公園に広がる。


「キャッ、いたあーい」


 砂まみれの金髪ツインテールが乱れる。ぐちゃぐちゃの鼻水まみれの泣き顔。エーコはそれでもはいつくばったまま手をのばした。


「サヤカちゃん、その、ぬいぐるみは、さわっちゃ、だめ……」


 その時、背後からエーコにそっと手を差し伸べる若い女性の姿があった。


「エーコちゃん、よくがんばったわね。もう大丈夫よ。ほら、立ちなさい」

「あ、美知恵先生! サヤカちゃん、ぬいぐるみ、さわっちゃ、ダメなの」

「分かっているわ。先生に任せて」


 ◇


 物陰から事態の成り行きを注視していた男は焦り始めた。


「な、な、な、な、なんか、おと、おと、大人が、で、で、出て来たぞ。ボ、ボ、ボ、ボクと、て、て、天使の出会いを、じゃ、じゃ、邪魔するなんて」


 男は冷や汗をかきながら事態の推移を見守った。


「く、く、黒髪ちゃん、が、が、が、がんばれ。お、お、おとなはいらん!」


 一瞬唾を吐き捨てるような表情を見せた男は、再びベンチのぬいぐるみに向かって突進するサヤカに目を移す。


「ぐふ、ぐふふふ、ぐふふふふふ。や、や、や、やっぱ、か、か、かわいいなあ、く、黒髪ちゃんは。ぐふ、ぐふ、ぐふふふふふふ。も、もうすぐ、どかあああああんん。そ、そしたら、ボ、ボクが走って行って、『お、お、お、お嬢ちゃん、だ、大丈夫?』って言うんだ。ぐひひひひ、ぐひひひひひ、ぐひ、ぐひ、ぐひひひひ」


 その時、男には奇妙なしぐさを始めた女の教師の姿が目に入る。


「?? な、なに、や、やってるの、あの人?? お、お、大人のやることは、わ、わからん」


 女教師は目一杯背中ををそらす。その身体のしなやかさ、柔軟さはまさにオリンピッククラス。イナバウアー状態から両手を振る反動で勢いよく身体を起こすと、そのまま弾かれたように、サヤカの黒髪に向けて立ち幅跳びジャンプした。なぜか技の名前を叫びながら。先生の澄んだ声が夕暮れの公園に響き渡った。


「ミチエ・スペシャル・ジャアアアアアアアアアンプ!」


 ◇


 驚くことに女教師は、エーコの転んだ場所からベンチの手前まで走っていたサヤカの背中めがけて、数十メートルの距離を一気に立ち幅跳びジャンプで追いついたのだった。


 それを驚きの目で見守るエーコ。


「すごい、あれが先生の必殺立ち幅跳び、ミチエ・スペシャルジャンプ。エーコにもあんな必殺技がほしい!」


 髪や服についた砂ぼこりを払いながらエーコはつぶやいた。


「さすが丈賀美知恵先生。三行で済むことを一万字にするぐらい訳ないのね。わたしなんて千五百字にするのがやっとなのに……」


 エーコはすんでのところで取り押さえられたサヤカに向かって、とことこと駆け寄りながら小さく声をあげる。


「でも、あれは、どう見てもエビに見えるの……。もう少しカッコいいと様になるのになあ」


 その時、先生の声が静寂を切り裂いた。


「エーコちゃん、うしろ! 男が逃げる! その男! 取り押さえて!」


(続く)


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ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!③ ~エーコ怒りの鉄拳制裁編 ゆうすけ @Hasahina214

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