第60話 終わりに

静寂。

 凄まじい力を放ったジェームズ・ハントの魔法の光はどこかへと消えた。


 ……そして、周りには誰もいなくなった。


 僕は何故か20代の大人の姿になっていた。何が起きたのかさっぱり解らない。

「ヨルダン。外へと出るんだ。」

 僕は雲助の言うとおりに、天使の扉のお城のような両開きドアを開けた。

 外は夏の日差しが少々酷な空が広がる。

「雲助……。いったいどういうことなの?」

 雲助は僕の肩から、6本足の1本で僕の顔を優しく掻いて。

「館の住人は今から700年前に戻って、ジェームズ・ハントの魔の手から解放されたのさ。つまり、誘拐されなかったんだな。ジェームズ・ハントの魔法と、黄金の至宝の魔法の衝突で、時空を越えて悪い因果律を……良い因果律に変えたのさ」


 僕は泣いた。


「そう泣くな。みんなが外へと出ることには変わらない。だって、元々館には捕まらなかったからさ。みんなは自由を取り戻したのさ」

 僕は蹲って泣いた。20代の大人のまま。

「ヨルダン。お前は9年間。この館で本を読んでいたんだ。良しも悪しくもそういう因果律になった」

「ロッテ。コルジン。グッテン……。お義父さん……お義母さん……」

 僕は彼らを思い出し、泣いた……。

「お前は強い。勇気があって、優しくて頭もいい。そんな子供は誰が何と言おうと立派な大人になる。この館での出来事を胸に……そのほとんどが……白と黒が……善と悪が一つのものだということが解ったはず。それを心にとめて生きろ……生きろ……」

 雲助はもう喋らない。いや、喋ることが出来ない大きな蜘蛛となった。

「う……雲助……」

 もう大人の僕一人なんだね……。


 しばらく泣きながら黄金の至宝を失った両手を見つめる。そうだ……ハリーおじさんもただ奥さんを失っただけ……お義父さんとお義母さんも子供たちを失っただけ……。ジェームズ・ハントの研究に使われていた館の住人の亡霊と特殊な亡霊も、外へと出れずに恨みを持ちながら、ジェームズ・ハントの魔法で館に何百年と束縛されていた……。

 多くの人は悪い過去に捉われると破滅の道を歩むんだ。例え現在に実際に起きていることだとしても、悪いことに捉われることは破滅を意味してしまう。

そう……僕には解ったんだ。

 僕は涙を拭いて立ち上がった。

「そうだ…………両親を探そう……………………」


「ねえねえ。知っている……」

 買い物かご片手の主婦が二人話している。

「ええ。あの家の坊や。11歳の時に家出したのよね。両親はとてもいい人だったけど、いったい何があったのかしら?」


 二人は長閑な夏の日差しの中、お昼は何にしようかと話していたが、自然と話題は家出した子供の話に傾いてきた。

「いえいえ、そうじゃありませんことよ。実は、わたし知っているのよ。なにせ毎晩子供の泣き声が聞こえてくるのよ。夜遅いから主人とベットでしかめっ面をしていたわ。」

「へー。そうだったの」

「何か子供にしてたんじゃないかしら?きっと、それは良くないこと」

「本当なの。あんなりっぱな親が?」

「そうよ。外見で判断しちゃダメなのよね。なんでもね。そういえば、子供が泣き叫んだ時もあったらしくて。主人が心配していて夜も眠れないとボヤいていた時もあったわよ」

「へえー。それは大変。回りの大人ってやっぱり世間体が邪魔して、そういうのって助けられないから仕方ないでしょね」

「そうでも……。やっぱり、可愛そうだって主人も言ってたわよ。なんとかしようとか考えていたのよね」

「あ、でもその子、大人になってから家に帰って来たのよね。……そして、両親を探しに旅に出たそうよ」

「まあ。強くなって……」

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白と黒の館へ 主道 学 @etoo

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