白昼夢
星之瞳
第1話夢だったのか。
ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ。両足を進めるたびに何かを踏み潰すような音がする。
ぐちゃぐちゃ、足の下はよく見えない。なぜこんなところを歩いているのかもわからない。それでも、前に進むしかない。転ばないように注意しながら俺は足を進めて行った。
どこに行こうとしているのか、何がしたいのか解らない。思考は停止し、只前に向かって進む。周りは薄暗くむせ返る匂いがしていた。何の匂いだろう。この匂い知っているような。いい匂いでも強すぎると不快でしかない。
ぐちゃぐちゃ。耳障りな音だぬかるみを歩いてもこんな音はしないだろう。何かを踏み潰しているような気持ちの悪い感覚。それが何なのか考える気力もない。喉が渇いた、休みたい。でもこのぐちゃぐちゃの中に座り込むわけにもいかない。俺は気力だけで前へと進み続けた。
ふっと意識が遠くなる倒れると思った時誰かに支えられた。「おい、大丈夫か」その声を聞いたとたん俺は意識を失った。その声は「おい!しっかりしろ!」と叫んだようだが・・・。
目を覚ました時、俺はベッドに寝かされていた。点滴がつけられている。『俺どうしたんだろう?』と思っていたら、看護師がやって来た。
「熱中症と脱水症状を起こしています。しばらく休めば治りますよ」と看護師は言って点滴の状態を見て行ってしまった。
入れ違いに男が入ってきた。「おい、心配したぞ。ワインの仕込みでブドウを足でつぶす作業をしていたら、お前がぶつぶつ言いだして足が止まって、おかしいなと声を掛けたら気絶してしまったんだから。バーにもたれかかってくれたおかげで助けることが出来たんだ。ブドウにも損害はなかったからお咎めは無いぞ。今日は一日休んでいいそうだ」とその男は言うと、部屋を出て行った。
そうだった俺はブドウをつぶす作業員で毎日働きづめで今日は特に暑くてきつかったんだった。と言うことは足で何かをつぶしながら薄暗いところを歩いていたのはあまりの暑さに白昼夢を見ていたということなのか。
お咎め無しでよかった。ブドウをダメにしていたら一生ただ働きになるところだった。俺は心底安堵した。
白昼夢 星之瞳 @tan1kuchan
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