堅物騎士と謎の贈り物 〜遺形の承継者 番外編〜

Skorca

堅物騎士と謎の贈り物

 それは、小鳥……のような形に見えた。

「……これは?」

 渡されたものを掌の上に乗せたまま、騎士クローブは言葉少なに問う。

「鳥ですわ」

 即座に答が返ってきた。

「そう見えませんこと?」

 胸の辺りの高さから上目遣いに顔を覗き込まれ、クローブは一度唇を引き結ぶ。

「……見えなくはない」

「ああよかった! わたくし、とっても苦労しましたのよ」

 そうだろうな、とクローブは思った。

 布をいくつか縫い合わせ、木屑か何かの詰め物をして、小鳥の頭からくちばし、尾までが形作られている。縫い目がなかなか惨憺たる有様であるにもかかわらず、ご丁寧につぶら……を目指したらしい目まで縫い取りがされていた。

 結果、何やら呪物を思わせる、恨めしげというか哀しげというか、とにかく……この世に生まれ出でてしまったことを憐れに感じてしまう、悲哀に満ちた気配を漂わせる何か、が出来上がったようである。

「旦那様に差し上げますわ」

 屈託のない笑顔で言われ、クローブは妻の顔から手の中の呪物……もとい、小鳥に再度目を移す。

 実際、他の者からこんなものを渡されたら間違いなく悪意を疑うところであるが、彼は自分の妻が、自分のもとに嫁いでくるまで針も糸も持ったことが無かったことを知っている。

 何しろ、彼女はクローブの主家の出身――この国でも屈指の権勢を誇る貴族家の姫だったのだから。

 その後、指を穴だらけにしながら侍女たちに裁縫を教わっていたらしいこともクローブは家人から聞いていた。

 すでにそれは十数年前のことであり、つまりは仮に彼女が幼少期から習練を始めていたとして、嫁いでくるまでの時間よりなお長い年月が過ぎているのだが、よほど不器用なたちなのか、一向に上達していない……ことが窺い知れる。

 恐らく、布と彼女の指の犠牲が増えるだけ――と、途中から家人がそれとなく彼女を裁縫から遠ざけたのだろう。

「なぜ急に?」

「少し前、地面に降りてきたコマドリをご覧になっていらしたでしょう。すぐに逃げてしまって」

「……」

「小鳥は視線に敏感ですもの。貴方は特に目つきが鋭くていらっしゃるから、なかなかゆっくりご覧になれないのではないかと思って」

 代わりですわ、とにっこり笑って言われたクローブは、彼女が満足げな様子で踵を返し、軽やかな足取りでこの場を去っていく間、口を引き結んだまま固まっていた。手の上に死骸のように横たわる、作り物の小鳥を乗せて。



 ……礼を、言うべきだったのだろう。

 しかし、自分でもほとんど覚えてもいなかったような、自覚すらも覚束ない微かな情緒の動きを本当に見抜かれていたのだと思うと、どんな敵にも怯まない自信のある彼でさえ、戦慄を覚えずにはいられない。

 ――つまり彼の頭の中は、到底礼を述べるどころではなかったのであった。

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