時を越えたかくれんぼ

九戸政景

時を越えたかくれんぼ

深夜二時、押し入れの中で俺は息を潜めていた。それを聞いた人からは何故そんな時間に押し入れの中にいるのかとかお前は某青い猫型ロボットなのかとか色々質問が飛んでくるだろう。簡単な話だ。現在俺は、“一人かくれんぼ”をしているのだ。



「……そろそろ来るかな」



押し入れの中で俺は独り言ちる。本来は塩水を口に含むのだが、俺は口にも含んでいなければ手に持ってもいない。何故なら、俺はスリルを味わいたいのではなく、一人かくれんぼの鬼に殺されたいからだ。



「……夕季ゆうき、後はお前がくれば……」



数年前に八歳で亡くなった弟の名前を口にする。俺、鬼庭おににわ朝陽あさひには病死した弟の夕季がいたが、夕季は俺が殺したようなものなのだ。


その日、夕季は少し体調が悪そうであり、夕方からのパートに行く母さんからは帰宅後に夕季の看病を頼まれていた。けれど、それを面倒だと思ったまだ十歳だった俺は学校で友達と喋って時間を潰し、いつもよりも一時間ほど遅く帰った。


その結果、夕季はその間に嘔吐物おうとぶつを喉に詰まらせて亡くなり、両親は葬式で揃って涙を流した。しかし、俺の涙は流れなかった。身近な人間の死を目の当たりにしてショックを受けていたのもあったが、心の中で自分を責めていて泣く方に意識が向かなかったのだ。


そして数年が経った今夜、両親が用事で留守にしている今夜に俺は夕季に会おうとしていて、その上で殺されそうとしているのだ。俺が夕季を殺したように俺は夕季に殺されるのだ。



「……他の浮遊霊が引っ掛かったらそこまでだけど、たぶん夕季が来るはずだ。そのために俺は夕季が大切にしていたくまのぬいぐるみを──」



その瞬間、押し入れの扉が開き、包丁を持ったくまのぬいぐるみが無機質な目で見つめていた。



「……お兄ちゃん、みーつけた」

「……見つかった」



そう言った後、“夕季”が持つ包丁が月光を反射し、無抵抗な俺へと躊躇なく突き刺さった。

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時を越えたかくれんぼ 九戸政景 @2012712

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