縫い縫い推しぬい

冥沈導

ぬいっ

 ぬい、又は、推しぬいとは。

 推しのぬいぐるみ、略して「推しぬい」。

 推しているキャラやアイドルの「推し」をディフォルメしたぬいぐるみの事である。


「いったぁ!」


 それを、作っているのであるが、超絶不器用な私はもう、何回も指に針をぶっ刺している。


「でも、作るんだ……。推しの、テイオスさんの誕生日に間に合わせるんだ。そして、推しケーキと一緒に撮るんだ……」


 明日は、推しこと、テイオスさんの誕生日だ。推しケーキは発注済みなので、あとはぬいを作るのみ!


「今の時代は、推し活をするヲタに優しいよね。推しぬいセットがあるんだから」


 私はネットで注文した『初心者でも大丈夫! 推しぬいキット!』を手に取った。


「3サイズのボディ付き、髪型や服の型紙付きなんて、神じゃん。あとはー……、私の手よ! ゴッドハンドにー! ……ならんわな。ええ、知ってましたとも」


 押しぬいキットにある、髪型の型紙を切り始める。


「リーゼントに近い、この逆立ち系ヘアにしようー、服はー、えっ、エプロンある! 眼鏡ある! 丸眼鏡だけど! やっぱ神キットだな!」


 型紙を切り終えた。


「あとは、己との戦いだ。フェルトよーし! ソフトボアよーし! 型紙よーし! コーヒーよーし! いざ! 参る!」






 翌朝四時。


「……朝までかかるって、どんだけなん。私、どんだけ不器用なん。念のために、今日は有休を取っておいてよかったー」


 何とかできた推しぬいを持ち上げた。


「でもさ、あれはないよね。『また休むの幾重見いくえみさーん、みんなに申し訳ないと思わないのー?』って。ふざけんなし、有休、有給休暇は、休む権利じゃろがい」


 推しぬいの顔をツンツンした。


「大体さ、残業なるべく付けるなっていうから、ほぼただ残業してるのにさ。今月もう何時間したと思ってんじゃ、一、二……、十時間やぞ。労基に訴えられても仕方ないんやぞ。私みたいな人材を大事にしろや。テイオスさんもそう思いますよねー?」


 推しぬいをうんうんと頷かせた。


「さすがテイオスさん! もう大好きー!」


 推しぬいを投げ上げて。


「わー! テイオスさーん!」


 慌てて腹ずりキャッチ。


「ふー、危ない危ない。ぽっちゃりでよかったわー、匍匐ほふく前進ぜんしんみたく腹ずりしても痛くない。ビバ贅肉ぜいにく!」


 立ち上がり、祭壇に飾った。


「今日も推しが尊い。ありがとうございます」


 パンパンと手を合わせた。


「……テイオスさん、お誕生日おめでとうございます! もう少しで真っ赤なイチゴケーキが届きますからねー。でも、あなたは永遠の56歳! イケオジ!」


 もう一度、パンパンと手を合わせると、ピンポーンとチャイムが鳴った。


「推しケーキ、来ましたよっ。テイオスさん!」


 私は概念スウェット(推し色の赤スウェット)と、ブルーライトカット眼鏡のまま、玄関に向かった。



 この数日後、私がクソ運営により、アプリに転移させられるのは、また別のお話。



−−−−−−


 あとがき。


 間に合わなかったけど、書いちゃったし、二人と一羽のイメージイラストできたしで、記念に公開。


 イメージイラストはこちら↓

https://kakuyomu.jp/users/michishirube/news/16817330654653822539


 こちらはスピンオフなので、これで興味を持ってくださった方、よければ本編いかが?|ョε・`*)チラ

https://kakuyomu.jp/works/16817139558520967377

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