6.パーティ壊滅(終)

 □■□


 決行当日。他の冒険者達がコカリマの別拠点に殴りこむと同時に、俺も単身でクロナさん達が潜伏しているであろう洞窟へと突入。


 その読みは見事に当たってくれた。洞窟の途中で、俺はその四人パーティを発見。


 間違いない。ゾンド、リーシャ、デスモ。……そして、クロナさんだ。


 しかも、どうやら危機一髪だったようだ。このままでは逃げられないと考えたゾンド達は、身代わりにクロナさんを動けなくして置き去りにしようとでも考えていたのだろう。彼女に執拗に暴行を加え、更にはリーシャが光魔法まで当てようとしている。


 ……許さない、絶対に。


「ハハハハハッ! おい嘘だろ!? 誰かと思えばお前――無能の役立たずのロイ君じゃないか!」


 乱入してきた俺の姿を見て、最初三人は余裕そうに笑っていた。おかげでクロナさんへの暴行が止まったことは好都合だ。

 

 まずはリーシャへの制裁。


「『ヘルファイア』!」

「……ぎ、ぎゃああああああああッ! 熱い、熱い熱い熱い! 顔が、あたしの顔があああああッ!!」


 さっきまで光魔法でクロナさんの顔を焼こうとしていた彼女の顔を、俺が逆に獄炎で焼いてやった。

 安心しろよ。お前のその顔が、もう世の中に出ることは二度とないんだからよ。


 次にデスモ。こいつは瞬殺だった。

 そもそも近接攻撃と魔法攻撃では相性が悪すぎる。


「『アイシクルブリザード』!」

「……カ」


 彼が斧を俺に振り下ろす前に、間抜けな氷のオブジェにしてやった。


「ひっ!? う、嘘だろ!? あのロイが、リーシャとデスモをこうも容易く!? ……やめろ、来るなあああっ!」


 最初はあんなにイキり散らしていたゾンドだったが、二人が倒されたのを見て今は完全にビビり散らかしている。

 そしてあろうことか、ぼろぼろになって動けないでいるクロナさんを盾にしてきた。


「…………」


 ――貴様という奴は、どこまで。


「『ライジングサンダー』!」


 俺は指先から迸らせた雷撃を器用に操り、クロナさんだけを避けて後ろのゾンドに見事命中させてやった。


「ぎゃああああああああああッ!?」


 その間抜けな姿を見ても、俺の感情は収まらない。怒りのあまり叫んでしまっていた。


「――クロナさんから離れろ、このクソ野郎が!!」


 雷撃が直撃したゾンドは吹っ飛び、後ろの洞窟の壁に激突。その間に俺はクロナさんに近づき、彼女を守るように立った。


「……え? ロイ……?」

「動かないでください、クロナさん。まだゾンドは倒れていません」


 俺の言葉通り、ゾンドはまだしぶとく起き上がって来た。


「く、くそ……クソがああああああっ! おいクロナ! そいつを殺せぇ! お前分かってんのか!? こっちはお前の妹を人質に取ってんだぞ!? 殺されたくなければ、そいつを殺すんだよ! なぁ!?」

「……っ」


 びくっ、とクロナさんは明らかに怯えた表情になる。俺の顔を見て、しかし何度も葛藤するかのように震えながらふるふると首を振っている。

 妹を殺されたくはない。……でも、俺も殺したくはないのだろう。こんなにも優しい人だったんだな、あなたは。


 ――その時、丁度俺は通信魔法でその「知らせ」を受けた。


 だから俺は、震える彼女の肩に優しく手を置いてやる。


「大丈夫。もう何も怖がらなくても、何もしなくてもいいんです。クロナさん」

「ロ、イ……?」

「お、おいクロナ! 何してんだてめぇ! 早く殺せ! さ、さもなくば妹が……」

「妹? 妹ってのは……あの子のことを言っているのかゾンド?」


 俺はゾンドの言葉を遮り、俺が来た道の方を指差す。


 そこには、もう既にコカリマの別拠点から救出され、今は複数の冒険者に保護されている幼い女の子の姿があった。


「お姉ちゃん!!」

「アイナ!? う、うそ……!」


 間違いなく、彼女こそが人質に取られていたというクロナさんの妹なのだろう。クロナさんは口に手を当て、泣きそうな目で彼女を見つめている。


「は、はああああああっ!? な、なぜ! なぜだ!? ほ、他拠点にいた連中は……!?」

「優秀な冒険者達が他拠点も既に全部壊滅させた、とのことだ。お前の部下も全員例外なくお縄に付いている。その冒険者連中も皆、直にここへ集結するだろう。……お前の負けだ、ゾンド」

「は……!? ……っ、ぐ、ぎぃいいいいいいいっ!!」


 往生際悪く、ゾンドはクロナさんの妹を狙って矢を放つ。


「『ファイアボール』!」

 

 だが、そんなものは俺の炎魔法が彼女に到達する前に跡形も無く焼き払ってしまった。

 そのまま俺は、もう打つ手なしのゾンドに近づいていく。


「ひ……! ……あ、はは……」


 その時、ようやく彼の馬鹿な頭でももう勝ち目がないと悟ったのだろうか。

 急に俺に向けて、気持ちの悪い愛想笑いを浮かべてきた。


「い、いやぁ……強くなったんだなロイは! 俺、びっくりしたよ! クロナなんかよりもずっと強い! お前こそが最強だ! ……なっ、どうだ? その力、もっと有効活用しないか? 俺と手を組もう! 俺が頭を使い、お前が邪魔してくる奴を殺す! 最高のコンビだとは思わないか!?」

「…………」


 俺は無言で、拳を振り上げる。それを見てゾンドの顔は引きつるが、その薄汚い口が止まることは無い。


「そ、そうすれば、金も女も思うがままだ! そ、そうだ最近は女の奴隷商売も始めようかとも考えていたんだ! 今の冒険者生活よりももっと稼がせてやるから! 好きな女だってお前にいくらでも斡旋してやるから! お前は一生遊んで暮らせるぞ、やったな! なあ、いい話だろう!? なあっ!? さあ、俺をここから連れ出して一緒に逃げてくれ!!」

「……話は終わりか、ゴミ野郎」


 俺は、渾身の力を込めてゾンドの顔面をぶん殴り倒した。


「びっ……!」


 殴られたゾンドは大きく後ろに吹き飛び、鼻から血を吹き出してぴくぴくと痙攣したまま気絶してしまった。


 殴った手がびりびりと痺れて痛い。か弱い魔導士である俺がこんな力で殴ることなど、きっともう二度と無いだろう。

 だが俺はそんな痛みを気にすることも無く、のびてしまったゾンドに向けて叫ぶのだった。


「大人しく法の裁きを受けろ。――そしてもう二度と、俺やクロナさんに近づくんじゃねえ!!」


 □■□


 ゾンド、リーシャ、デスモのコカリマ主犯格の三人を倒した。他拠点も全滅とのことなので、コカリマというパーティはもう存続出来ないだろう。


 これで終わりだ。俺は、自分を追放したパーティを壊滅させることが出来た。


「……どう、して……?」


 クロナさんが、ぼろぼろのまま床にへたり込んで俺にそう問いかけて来る。

 俺はそんな彼女に近づくと、優しく笑いかけてあげた。


「……ふぅ。無事……とは言えませんが、あなたを助けられてよかったです、クロナさん」

「……どう、して……助けて……? 私は一年前、君にあれほど酷いことをしたのに……」


 訳が分からなそうに、再度問いかけられる。まあ、そういう反応が妥当だろう。

 仕方が無いので、俺は事情を話した。


「ここに来る前、あなたの村に立ち寄りました。そこであなたのおばあさんに出会って……その、全部聞いちゃったんです。……あなたが、俺のことを本当はどんな風に思ってくれていたのかとか、諸々、全部……」

「……………………ふぇ」


 クロナさんはしばらく無言で固まった後、急にぼふっと顔を赤くしてしまった。あ、恥ずかしいとそういう反応するんだクロナさん……可愛い。


 だが、せめてもの抵抗だったのだろう。彼女はぶんぶんと首を振ると、また悲しそうな顔で目を伏せてしまう。


「だが……だが! 確かに理由があったとしても、私が君に酷いことをしたのは事実だ! たくさん酷いことを言ったし、たくさん暴力も加えた! 君に……きっと辛い思いをさせたことだろう。……私は、私が嫌いだ。君のためだと心を鬼にして、あんなことを! そんな私に、やっぱり君に助けてもらう権利なんて……っ」

「……それでも、俺は嬉しかったんです」


 俺は腰を落とし、クロナさんに目線を合わせる。彼女もまた、驚いたような顔で俺を見た。


「確かに、あなたに追放された時は悲しかった、辛かった。成り上がった後も、俺の心には小さな傷が出来ていた。……でも、そんなのはもうどうでもいいんです。だってあなたの真意を知れた時、俺はそんなものを全部覆せてしまったくらいに嬉しくなれたんですから! ……だから俺は、そんな気持ちにさせてくれたあなたに『お返し』をしに来たんです」

「おかえ、し……?」

「周りを見て下さいよ。――あなたを苦しめるもの、しばるもの。俺が全部ぶっ壊してあげましたよ」

「……あ」


 クロナさんは周囲を見渡す。もうコカリマの三人も倒れている。妹も無事だ。

 彼女はもう、これからはやりたくもない違法薬物の搬送などしなくて良いのだ。


「安心してください。俺はあらゆる手を尽くして、必ずあなたの無実を証明してみせます。だからもういいんです。あなたは俺を守って、俺の幸せを願ってくれた。――だから今度は、ずっと俺があなたを守ります、幸せにします」


 そして俺は、クロナさんを優しく抱きしめていた。


「ロ、ロイ……!?」


 彼女の身体は、思った以上に細くて小さかった。今までその身体に、どれだけの苦悩と悲しみを背負ってきたのだろう。

 だから俺は、そのまま彼女の背中を優しくさすってあげていた。


「いいんです。もう、大丈夫です。俺の為に、今までありがとうございます。だからこれからは、俺がそばにいます。もう何も怖がらなくても、気負わなくてもいいんです。……よく……頑張りましたね、クロナさん……っ」

「…………あ……」


 これでやっと、俺はずっと凍り付いていた彼女の心を解きほぐせただろうか。

 その時、彼女の中で何かがはじけたようだ。


「……っ、う……ひっく……! わた、し……わたし、は……! ……うあ……うわああああああああああああああっ!!」


 俺は初めて、クロナさんが声を上げて泣くのを聞いた。


 □■□


 俺はクロナさんが泣き止むまで、ずっと背中をさすり続けていた。だが、やがて彼女は泣くのを止めてしまう。


「おや、もういんですかクロナさん?」

「……う、うる……さい。というか君は、いつまで恥ずかしげもなく私に抱き着いているんだ……っ」

「いや、抱き着きながらあなたに回復魔法を。接触している方が回復効率がいいので」

「え……あれ、本当に身体が治って……にしても、もう完治してる! 離れてくれ! というか、周り……!」

「ん……?」


 そう彼女に指摘されて、俺も初めて気が付いて顔を上げていた。


「「「ひゅーーーー!!!!」」」


 それと同時に、一斉に拍手と歓声が巻き起こる。いつの間にかもうここに合流していた冒険者達のものだ。俺達が気付くまで、ずっと息を殺して見守っていたらしい。姑息な連中だ。


「良かった、よかったのぉーー!!」

「流石ロイ様だ!! ひゃっほーい!!!!」

「宴だ、今夜は帰って祝杯だーー!!」

「ロ、ロイさんが……また新しい女の子を……! でも幸せならそれでオーケーです!!」

「ほらー! やっぱりロイ様を取り合う新しきライバル候補! むきー!」

「別にいいじゃないか。ロイ殿は私のものだ」

「いやーー! めでてぇ、めでてぇ、めでてぇわーー!!」

「ぐすっ、良かったぜぇええ……ずびぃいい……」


「「…………」」


 盛大に祝われているのは嬉しいが、うるさい。本当にはた迷惑な連中だ。


 ……でも、ここがクロナさんの新たな居場所になればいいなと俺は思う。


 さてと。本格的にもみくちゃにされる前に、これだけはクロナさんにいっておこう。


「クロナさん。じゃあ俺に罪悪感を持っているって言うなら、一個だけ俺のお願いを聞いてもらえます?」

「む……なんだ?」

「……俺を、またあなたのパーティに入れてくれませんか? 実は今ソロなんです」


 それを聞いた彼女は、しばらく目を見張った後に、すぐにおかしそうに笑い始めた。


「……ふふっ、馬鹿だな君は。他でもない君が、その私のパーティを壊滅させてくれたのだろうが」


 それから彼女は、俺に初めて見せてくれた飛び切りの笑顔を向けるのだった。


「――だから、二人で新しいパーティを作ろう!!」




「荷物運びすらろくに出来ない君はクビだ」と冷酷な女リーダーからパーティを追放された俺、その後魔導士としての超絶な才能を開花させた一方で、彼女達のパーティは指名手配されていたのでお返しに壊滅させてやった――【完】

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「荷物運びすらろくに出来ない君はクビだ」と冷酷な女リーダーからパーティを追放された俺、その後魔導士としての超絶な才能を開花させた一方で、彼女達のパーティは指名手配されていたのでお返しに壊滅させてやった @marumarupa

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