魔物から子供を守って死んだ【槍聖】の父のように、周囲の人間を守れる男になろうと誓ったナイク。そんな彼に女神が与えた役職は【死霊術師】。かつて人類の1/3を殺したことで知られる超曰くつきの役職だ。
こんな邪悪な役職を上手く利用して世のため人のために生きようとする……のが王道の物語なのだが、ナイクは自分の役職を知った司祭をその日の内に殺して逃亡してしまう。もう弁明の余地なく邪悪である。そう、この物語は王道の英雄譚などではなく、邪悪な能力に相応しい性格の少年が自分の正体を隠そうと悪あがきをするピカレスクな物語なのだ。
使い方次第では最強にもなれるチートな役職の【死霊術師】だが、バレたらえらいことになるのでナイクはこの力をめったに使おうとしない。それどころか正体を隠すために役職とは噛み合わないスキルまで習得しており、やっていることはチートどころか縛りプレイである。しかし、正体を隠しながら自分の戦える道を探るこの縛りプレイがとても楽しいのだ! 中でも隠匿能力をギミックとしてフル活用した1章後半の不気味な戦闘シーンは本作ならでは。
また、必要ならば親しくなった人間でも躊躇いなく殺せるのだが、快楽殺人者というわけではないので、なるべく穏便に物事を解決したいと考えるナイクの人間性が非常に不安定で読んでいてハラハラする。主人公の邪悪な精神性が作品全体をどす黒く染める、新種のダークファンタジーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)