エピローグ


「どうでした、ぬいぐるみとしての人生……ぬい生は」


 あ、久々に見た。女神だ。相変わらず、きらきらと発光している。

「あー、うん。まあ、なかなかでした」

 そして、久々に喋った。そういえば、俺ってこんな声だっけ。真っ白な空間の中、俺は人間でもぬいぐるみでもない姿で、そこに存在していた。


 そうか、5回目のぬい生も終えて、俺はとうとう、死ぬのか。



 混濁している記憶を探ってみる。5回目のぬい生の最後は……ああ、そうだ。俺は燃えたんだった。


 美しい花々に囲まれて、しわくちゃのお婆ちゃんになったシオリちゃんの隣に寄り添って、俺は灰になった。それが、俺の最期だった。



「5度もの転生、お疲れ様でした。あとはゆっくり、お休みなさい」

 微笑む女神に、俺は会釈をする。どうにも実感がない。これで、終わりなんだな。


「あの……最期にひとつ、訊いてもいいっすか」

「はい、なんでしょう?」

「転生に、意味とかってあるんですかね?」

「意味……ですか」

 女神は少し考えて、そしてあっけらかんとした調子で「ないですね!」と言い切った。


「意味なんてありません。命にも、人生にも、もちろんぬい生にも」

「運命、とかも?」

「ありませんね」

「俺が5回も転生できたことにも、5回ともぬいぐるみに転生したことにも、縁のある人たちに再び巡り合えたことにも?」

「ないです、意味なんて。でも……」


 一度、言葉を切ってから、女神はこの世のものとは思えない(実際、この世のものではない)美しい笑顔で、にっこりと笑った。

「そこに意味を見出そうとする行為には、とても尊い意味があると思います」



 白い光が、どんどん強くなっていく。俺と光との境目が、どんどん曖昧になっていく。


「では、さようなら」

 女神が言った。

「さようなら」

 俺も言った。さようなら。



 意味のない転生、意味のないぬいぐるみ生。でも俺は、幸せだった。


 さようなら。





<おわり>

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ぬいぐるみ転生 深見萩緒 @miscanthus_nogi

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