エマージェンシー 【KAC2023参加作品】
卯月白華
目の錯覚だと誰か言って
観葉植物もあるのも手伝って、角の目立たなさそうな席に三人で座りながら、何を頼むか自己紹介しつつ話していると、砂糖菓子の様な美少女が顔を膨らませたので面食らう。
……何故に。
「飲めるの無い。真彩は、ホットチョコレートのホワイトの!」
中学生くらいに見える同年代だという少女はそう言って、小さなバッグから一抱えもありそうな巨大なウサギのぬいぐるみを取り出した。
赤い目をした、本来なら真っ白なのだろうウサギのぬいぐるみ。
今は耳は両方が垂れていて、色もくすんで灰色に見える。
……ぬいぐるみの血を固めた様な赤い目と視線が合った気がした。
手も振られている気がする。
どこにでもある、というには大きいけれど、ただのウサギのぬいぐるみなんだから、気のせい……よね。
誰か気のせいだと言って。
何度も言い聞かせながら、なるべく視線をぬいぐるみから逸らしてみる。
あることに気がついてから冷汗が止まらない。
……真彩さんのバッグ、彼女の小さい片手で収まるくらいの大きさ。
どう考えても、どんなに小さく詰め込んでも、あのぬいぐるみ……入る訳が無い。
だって真彩さんの膝の上に置いているのに、ぬいぐるみの顔と彼女の顔の高さ同じですよ。
それくらいおおきいです。
綿もつまってそうですね。
抱き締められている様子から、ふかふかそうな弾力が見て取れる。
「そう言ってもな……中々ホワイトチョコレートの飲み物ってないだろ。何か別のしたら。ほら、ホットミルクの蜂蜜入りだってさ」
私の向かい側に真彩サンの横に座っている、今は軽薄さより爽やかさがどうにか勝ってなくもないような気がする射矢蒼馬が、メニューを見ながら気安い調子で話しているのを横目にしていても、脂汗が止まらない。
どうして誰も気がつかないのって、座る位置か。
座る位置なのか。
……このぬいぐるみ、今ウインクしたぞ、おい。
どう考えてもあり得ない。
ガラス玉の赤い目が、どうやってウインクしてるのよ。
……ぬいぐるみの手、今サムズアップしてませんかね。
思わず大きなため息が漏れる。
――――さて、私は何も見なかった。
手を振るぬいぐるみを一切無視して、そう言い聞かせながら改めてメニューへと視線を落とす作業に集中する。
……本当に、どうして雨宿りを此処でしようと思ったかな、私。
エマージェンシー 【KAC2023参加作品】 卯月白華 @syoubu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エマージェンシー 【KAC2023参加作品】の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます