いのちの授業

脳幹 まこと

ぼく達とぶーちゃんの卒業


 ぶーちゃんはクラスのマスコットだった。

 ふくよかな体型、クリクリしたお目々、市のゆるキャラに出しても通りそうなくらい可愛らしかった。


 人気は高くて、男女で取り合いにもなったこともある。他のクラスの子がこっそり盗み出そうとしたこともあった。

 でも、最後はあの柔和な笑みにやられて、みんな仲良くなった。


 常にぶーちゃんは6年2組と一緒にいた。運動会にも合唱コンクールにも修学旅行にもいた。

 卒業アルバムの写真にもぶーちゃんは数多く登場している。


 間違いなく、アイドルだった。


 卒業式の日、ぼく達だけは特別な気持ちで席に座っていた。

 遂にこの日が来てしまったのだ……ぶーちゃんとの別れの日が。


 最初からそのつもりで一緒にいた。ぶーちゃんと初めて出会った日に、先生は目的を伝えていた。このブタさんはいのちの大切さを伝えるために来たのだと。


 他のクラスからも別れを惜しむ言葉が出た。

 ぼく達だって本当は食べたくない。でも食べていくことでぼく達は今まで生きているんだと、先生は熱く語っていた。

 生きるためには、どんなものでも食べなくてはならないのだ。それが、どれだけ大切なものであったとしても……


 ぶーちゃんはつぶらな瞳でこちらを見つめる。


「ぶーちゃん!」


 クラスのマドンナだったあーちゃんが泣きはじめた。それを見てみんなも同じように泣きはじめた。


 先生、本当にやらなくちゃいけないんですか?


 ぼくが前を向いてみると、普段は厳しい先生も涙をこらえていた。


 ああ、そうか。先生が一番辛いんだ。

 だって先生は、こうなることを分かってぶーちゃんをここに連れてきた、飼い主なんだから。


 ありがとう、先生。


 ずんぐりと太った桜色の腹をハサミで切ると、中身は白くて雲のようだった。

 それを甘めに煮つけにして食べた。

 歯や舌に糸が絡まって、実に飲み込みにくかった。


 今日、ぼく達は学んだ。

 ぬいぐるみは、食用には適さないのだと。

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