バクちゃんは、大ピンチ!

七倉イルカ

第1話 バクちゃんは、大ピンチ!


 由奈ちゃんは、いつもバクちゃんと眠ります。


 バクちゃんは、ぬいぐるみです。

 由奈ちゃんが、お化けの夢をみて、眠ることが、こわくなったとき、大好きなパパが買ってきてくれたのです。


 「由奈ちゃん。

 この子はね、バクという動物のぬいぐるみなんだよ」

 「バク?」

 「バクはね、こわい夢や、わるい夢を食べちゃうんだ。

 だから、この子と一緒に眠れば、もう、こわい夢をみることはないんだよ」

 「ほんとに?」

 「もちろん」

 (もちろん)

 由奈ちゃんには、パパの声だけではなく、バクちゃんの声も聞こえたような気がしました。


 バクちゃんは、少しお鼻が長くて、すましたように目を閉じています。


 由奈ちゃんは、その日から、バクちゃんと眠りました。

 夜にみたのは、たくさんのお友だちと、お花畑であそぶ夢でした。

 朝になり、目をさました由奈ちゃんは、バクちゃんをギュッと抱きしめました。

 「ありがとう、バクちゃん」

 

 それから由奈ちゃんは、すっかりこわい夢をみなくなりました。


 「おやすみ、バクちゃん」

 由奈ちゃんは、バクちゃんと一緒に眠ります。

 「おはよう、バクちゃん」

 由奈ちゃんは、起きるとバクちゃんの頭をなでます。


 ある夜、由奈ちゃんは、夢の中でバクちゃんと出会いました。

 夢の中のバクちゃんは、目をぱっちりと開けていました。

 大きくて、かわいい目です。

 でも、どこか困った目になっています。


 「どうしたの、バクちゃん?」

 しんぱいした由奈ちゃんが、たずねました。

 「あのね、由奈ちゃん。

 ぼく、こわい夢を食べすぎて、お腹がいっぱいになっちゃったんだ。

 くるしくて、はき出したいけど、そうすると、由奈ちゃんは、また、眠るのがこわくなっちゃうだろ」

 バクちゃんは、困った目で言います。


 「う~~ん、どうしよう」

 「う~~ん、どうしたらいいかな」

 二人は、いっしょうけんめい考えました。

 「そうだ!」

 由奈ちゃんは、よい方法を思いつきました。

 


 「ねえ、パパ。

 今日は、バクちゃんを貸してあげる」

 眠る時間になったとき、由奈ちゃんは、パパにバクちゃんを渡しました。

 「どうしたの?

 バクちゃんと一緒じゃないと、眠れないんじゃなかったの?」

 パパは、ふしぎそうな顔で、バクちゃんを受け取りました。

 「いいの。

 でも、今晩だけだよ」


 次の日の夜。

 由奈ちゃんは、パパから、バクちゃんを返してもらいました。

 そして、また、いつものように、バクちゃんと眠ったのです。


 夢の中に出てきたバクちゃんは、とても元気そうでした。

 「大丈夫、バクちゃん?」

 「うん。こわい夢は、全部、はき出してきたからね」

 バクちゃんは、すました笑顔で答えます。


 バクちゃんは、いつも由奈ちゃんと眠ります。

 そして、時々、パパと眠ります。


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バクちゃんは、大ピンチ! 七倉イルカ @nuts05

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