道造の「水引花」

九月ソナタ

水引草の思い出よ

近況ノートに写真をアップできることをわかり、うれしいです。

今朝「水引草」の写真を載せましたが、それは数年前に妹が送ってくれたものです。

その写真には「風たちぬ 水引草の 思い出よ」の一句が添えてあり、

「立原道造に水引草が出てくる詩があり、感動して作った」と書いてありました。


どこからか飛んできて、可憐な花を咲かせる「水引草」、

花は赤、中が白くて縁起ものの「水引」に似ていますから、日本では好まれていますよね。英語ではPolygonum と呼ばれ。何百種類もあるそうですが、アメリカでは雑草として取り扱われています。別名「Jumpseed」で、名前のとおり、種が飛ぴます。全部の種類ではないと思いますが、指で押したら、びょーんと飛んでいく動画をYoutubewで見ました。



妹が写真を送ってくれた時、私は道造の「水引草」の詩を思い出せず、さっそく青空文庫で調べてみたところ、「萱草に寄せて」の中の「のちのおもひに」にありました。「萱草」は「わすれ草」と読ませます。


「のちのおもひに」を青空文庫から引用させていただきます。


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ゆめはいつもかへって行った 山の麓のさびしい村へ

水引草に風が立ち

草ひばりのうたひやまない

しづまりかへった午さがりの林道を


うららかに青い空には陽がてり 火山は眠ってゐた

ーーそして私は

見てきたものを 島々を 波を 岬を 日光月光を

誰もきいてゐないとしりながら 語り続けた....


夢はその先には もうゆかない

なにもかも 忘れ果てようとおもひ

忘れつくしたことさへ 忘れてしまったときには


夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう

そして それは戸をあけて 寂寥の中に

星くづにてらされた道を過ぎさるであらう

ーーーーーーーーーー


書き出しの、

「夢はいつもかへっていった、山の麓のさみしい村へ」、

ああ、いいなぁ、

心はすぐに彼の詩の世界にはいっていきました。

私も道造は好きで読んでいるはずなのに、こんな美しい詩をなぜ覚えていないかったのかしらと思いました。


若かった頃の私は、外に「行く」ことばかりに考え、「帰る」ことには興味がなく、字が目の上をすべっていったのでしょう。


道造がこれを作った時が二十三歳で、このさみしい村というのが彼女と行った軽井沢だというのは、解説を読んで知りました。


この詩を最初に読んだ時の印象と、詩のことをあれこれ調べてから読んだ感想では、かなり違うものがあります。


でも、最初の印象もちょっとおもしろいのではないかと思うので、忘れないうちに記しておくことにします。


読み始めた時、私は自分自身がその歌の中にいるように感じました。私自身(スピリット)が北海道の父の田舎に帰ったような思いになったのです。

それで、こんなふうに解釈しました。

ーーーーーーーーーーーーー


これからどうなるんだろうと思う時、私の心はいつも帰っていく、あの北国の寂しい父の故郷へ

秋には水引草が風に揺れ、

虫たちの声が絶えず聞こえる村

静まり返った午後の林道を、私は歩いている


青い空にはうららかに陽がさし

山々は静か

そして、私は

これまで見てきたいろんなことを思い出し、

あそこに行ったよ、あんなこともしたよと、空に向かって語り続ける

聞いくれる人は、もういないと知りながら


私の思いは、そこから先にはもう行かない、ここが私の原点であり、おしまいの場所なのだ。

おしまいは遠くはない。だから、何もかも忘れてしまおうと思い、もう思い出さないことにする

そんなことさえ忘れてしまった頃には、またあの寒い冬がくるだろう


私の存在、記憶は、何も残らない。真冬の中で凍ってしまうのだろう

そして、いろんな記憶は私の身体を飛び出し

星くずにてらされた道を通り過ぎる

そして、魂は宇宙に行って、無の世界に同化されるのだろうか


ーーーーーーーーーーー

上の文章を書いた時には。最愛の妹は生きていたのですが、去年苦しい闘病の末、旅立ってしまいました。

最悪の年・・・・、

それで今年からカクヨムを始めて、こうして、妹のことを時々書いています。


「あそこに行ったよ、あんなこともしたよと、空に向かって語り続ける。

聞いくれる人は、誰もいないと知りながら」

というところが、悲しくてならない。









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道造の「水引花」 九月ソナタ @sepstar

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