第3話 出会い

AREA:街〈ジレン〉へと続く道


 ずっと森の中を彷徨い歩いていた。木々の影で常に暗い森だったが、湖の近くは開けていた。久々に日光を浴びた気がした。

「うん、回復あるとやっぱり楽だね。魔力回復はできないから魔法は抑えなきゃだけど、物理でゴリ押しできるのはでかい」

力がついてきたのをだんだん感じてきた。きのこや木の怪物なら一撃で倒せることもあるくらいだ。彼も、回復しなくて済むぶん攻撃に魔力を回しているようだ。それにご飯も美味しくなった。動物と比べたらやはり味は落ちるが、それでもかなりよくなった。

「ご飯、美味しそうに食べてくれてよかった」

彼と反対に彼女は笑わない。

「あ、そういえば私の名前を言ってなかったわね。私はモイラよ。まあ好きに呼んでくれて構わないけれど。ところで2人はなんて呼べばいい?」

「そうだな、おれはアーテ。こいつはクロノだ。おれはいつもクロって呼んでる」

「そう。じゃあアーテとクロって呼ぶことにする」

少しだけ嬉しそうな声だった。彼とモイラの仲が少しだけよくなった気がして、ぼくは嬉しかった。

 また鬱蒼とした森の中を歩いていた。相変わらずモンスターを倒し、食事をして眠る日々。無論疲れは溜まっていく。モイラも集中が切れてきたのか、傷の治りも悪くなってきた。彼は簡単そうに倒すものの、少し呼吸が荒い。

「あー、回復力落ちちゃったね。まあ集中力すごく必要だから仕方ないことなんだけど……」

そう言いながら彼は簡単そうにぼくの傷を治す。しかし表情は以前よりも明らかに険しかった。

「別にキミにはそこまで期待していないんだ。蘇生さえ成功してくれればいい」

闘いには参加しなくていいよ。そう言うと彼は次々とモンスターを倒していく。ぼくは後ろから近づいてきたやつだけ攻撃する。とてもじゃないが、彼のような戦闘はできない。

――ドサッ。

不意に何かが倒れるような音が聞こえた。モンスターであれば自身のコアを燃やして消滅する。投げ飛ばされたような音でもない。振り返ると彼が倒れていた。先ほどよりも息が荒く、心無しか紅潮している。起こそうとして触れたら熱かった。モンスターに狙われる中で倒れている彼と、その横に立ち尽くすぼくを見かねてか、モイラが駆け寄ってきた。

「何かあったの?!」

声をかけられたぼくはハッとして、モイラの手を彼に触れさせる。

「ああ、熱が出たみたいね……。キミが前なったのに近いかな? けど……」

考え込むモイラにモンスターが襲いかかってきた。

「危ないっ!」

大声とともに一筋の斬撃が宙を飛ぶ。傷つけられたモンスター達の意識はその青年へと向く。青年は舞うかのように攻撃を繰り出し、モンスターを一掃した。

「だいじょぶですか?」

顔についた血を拭うこともなく笑う。それが前に見た彼と似ていてか、妙な親近感を覚えた。

「ありがとう。全員が死ぬところだった」

モイラはそう言って頭を下げる。ぼくも慌ててお辞儀をした。

「いいですよ。それより、そこの少年はどうかしたんですか?」

「ええ、たぶん疲労から来る熱だと思うんだけど……。休ませようにも私は限界が近いし、この子は一度倒れたことあるから不安だし……」

モイラの声はどんどん小さくなっていく。ぽんと頭に手を置かれた。ぼくと視線を合わせるように青年は軽く屈み込む。

「ほんとだ、疲れた顔をしているね。村までもう少しだけど、歩けるかい?」

こくんと頷くと、そのまま頭を撫でられた。

「じゃあ俺が一緒に闘いますよ。その子のことは背負って行きます。戦闘中はあなたが面倒見ててくれますか?」

「ええ。本当にごめんなさい」

「いいですよ。それじゃあ行きましょうか」

また青年はふわっと笑った。よく笑うところは彼と似ているけど、その奥にある温かさは違う気がした。



AREA:街〈ジレン〉


 石を敷き詰めたように空は重そうな灰色の雲で覆われていた。空のダムは今にも決壊しそうだ。

「とりあえず村についたよ」

青年はぼくの方を振り返った。彼は一切喋らない。もう数日ずっとこの状態だ。道すがら彼の手を握っていたが、日が経つにつれ体温は上がっていたような気がする。ぼくのはやる気持ちのせいか、本当かはわからない。けれど、いい状態でないのは確かだった。

「それじゃあ医者のところへ向かいましょう」

ぼくらはお医者さんのところへと向かった。空から落ちる水滴が、静かなメロディーを奏でていた。

 「こりゃ風邪だね。元気がなくて治りが悪いみたいだ」

そういや、とお医者さんは続ける。

「お前さんは治癒が得意そうだが……風邪を治す魔法は覚えていないのかい?」

「はい……。見たこともないので……」

モイラはうなだれて答えた。

「まあいいさ。あとで私が教えよう。それに、この子はしばらく横になっていれば治るさ」

ありがとうございます。モイラと青年はお礼を言って頭を下げる。ぼくも頭を下げた。満足そうに頷くと、にしても、とお医者さんはぼくを見て続けた。

「どうしてこんな子どもが旅に……。お父さんやお母さんはどうしたんだい?」

ぼくはかぶりを振った。

「そうか、それはすまないことを訊いた。お詫びと言っちゃあなんだが、この村にいるときはここに泊まっていいよ。もちろん代金は取らないさね。治療費は……今回はタダでいいさ。けれど、次回からは取るよ? そうでもしないと君たちは無理をしそうだからねぇ」

ふふふと笑い声を上げ、意地悪くて温かい笑みを浮かべた。

「それじゃあ、あなた達もお休み。みんな倒れちゃったら意味がないからねぇ」

そう言ってぼくらを休める部屋へと連れていってくれた。

「ご飯ができたら起こしてあげるから寝ておいで。男の子と女の子の部屋は別だよ。それと、あなたは明日から魔法の練習ね。男の子2人はお外で修行しておいで。あの子が元気になったら教えてあげるさ」

そう言うとお医者さんは来た道を戻って行った。それじゃあ、また。そう言ってモイラも部屋へ入る。

「すまないな、俺がいなけりゃあの子と同じ部屋だったかもしれないのに。君は俺と一緒でもいいかな?」

ぼくは頷く。彼のように優しくしてくれるこの青年と一緒ならばいいと思った。

「よかった。それじゃあ休もうか」

ぼく達は部屋へ入ると、ベッドへ寝転んだ。雨音はやがて聞こえなくなっていった。

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