ぬいぐるみの話

透峰 零

我が家の場合

 夜中の二時前、いわゆる丑三つ時という時間にホラーを書いている。

 理由は簡単、KACのためだ。

 第二回である今回のお題は「ぬいぐるみ」。今回、私がぬいぐるみと聞いてすぐに思い浮かんだネタがある。



 私の実家では以前からちょいちょい不思議なことが起こっていた(まぁ、家人の中にいわゆる人間がいるのでそれもあったのかもしれないが)。

 とにかく「ホラー小説のネタにそのまま使うとパンチ力に欠けるが、自分達と違う世界はあるのかもしれない」と思うくらいには、面白いことは色々とあるのだ。

 もっとも、介護系の仕事をしている母や兄にとってはそういうことは日常茶飯事、とまではいかないまでも特に珍しいことではなかったようで、いわゆる「先日亡くなった〇〇さんを夜に廊下で見たわ〜」みたいな話もザラにあったようだ(なお、筆者は一般企業に勤める社畜なので、他の介護関係者の方がどうなのかは分からない)。


 ここで補足すると、私は基本的にお化けや幽霊は怖いと思っている人間である。

 ホラー書いてるのにどうなんだ? と思われるかもしれないが、怖いと思う気持ちが多少でもないと他人を怖がらせることなど出来ないと思うから許してほしい。そして私の怖がりは、確実に父の遺伝である。理由はとても単純で、父がとても怖がりだからだ。今も家で不可解なことが起こると、その度に本気で怖がっていると聞く。

 さて、そんな彼が(恐らく唯一)体験した不思議なことが今回のお題の「ぬいぐるみ」である。


 ◆◇◆◇


 まだ私が大学生の頃の話なので、もう十年近くは前のことだ。

 実家を出て暮らしていた為、私の部屋はほぼ物置と化していた。

 そして、どういう経緯でそうなったかは忘れてしまったが、なぜか当時は父親がそこで寝ていたのだ。

 部屋には私が置いていった本や人形も置かれており、その中の一つに、小さい頃に近所のお姉さんがくれたぬいぐるみがあった。

 可愛らしい女の子のぬいぐるみで、恐らく家の中にあるぬいぐるみ類の中でも相当に古い。父と母がデート時に買った熊のぬいぐるみの次の次くらいには古いだろう。

 ある朝、そのぬいぐるみが父の布団の中にいたのである。

 父は母が悪戯で忍び込ませたのだと思い、特に怖いとも思わなかったそうだ。

 何なら、朝ごはんの席で母に笑いながら「あのお人形ちゃん、布団に入れたやろ」とも問うていた。

 折よく帰省していた私もそのやり取りは聞いていたので、よく覚えている。


 賢明な読者の皆さんはもう答えがわかっているだろうが、一応結果を書いておこう。母の答えは「ノー」であった。

 彼女曰く「昨日の晩、部屋を覗いた時には父の布団の中にすでにいた」とのことだ。そもそも、ぬいぐるみはベッドから離れた部屋奥の棚に陳列されていたのである。疲れた母が理由もなく部屋に入り、わざわざ棚から取ってくるとは考えがたかった。

 ぬいぐるみと共に寝る旦那を見てそのままスルーする母もどうかと思うが、父はよく人形を撫でたりして可愛がっているので、我が家では特にツッコミが入ることはない。

 その後、青くなった父は私や兄にも「どっちかの悪戯やよな? な?」と半ば懇願のような勢いで聞いてはきたが、あいにくと私も兄も心情的には親離れを済ませていたので、残念ながら否定を返すしかなかった。



 言うまでもないが、父はそれからすぐに寝る場所を移した。なお、ぬいぐるみはまだ家にいる。

 あれから特に動いたという話は聞かないが、あの一件が実は誰かの悪戯だったという話もまた、聞かない。

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