ぬいぐるみだって本が読みたい

大田康湖

ぬいぐるみだって本が読みたい

 小学生の少女、しおりは塾の帰り道、引っ越し中の妖精から豆本をもらった。なくさないように自分のかばんに豆本をしまうと、しおりは早足で家に帰った。

 その夜、パジャマに着替えたしおりは自分の部屋に戻り、かばんに入れた豆本を取り出した。柔らかい布張りの赤い表紙を優しく触ると、しおりは部屋を見回した。

(誰にも見つからない場所にしまわなくちゃ)

 しおりの目にとまったのはベッドの頭の上にある物置きだった。目覚ましの隣に茶色いウサギのぬいぐるみが置かれている。しおりが幼稚園の頃、初めて自分のお年玉で買ったぬいぐるみで、「ミミちゃん」と呼んで大切にしていた。

(ここならママも気づかないよね)

 しおりは「ミミちゃん」を取り上げると、背中にあるファスナーを開けた。中が袋状になっており、物をしまえるようになっている。しおりはそっとその中に豆本をしまった。

(ミミちゃん、大事に預かっててね)

 しおりはそのままベッドに入って眠りについた。


 気がつくと、ベッドの上から誰かがしおりを呼んでいる。

(ママ?)

 起き上がったしおりの目の前に、ミミちゃんが落ちてくる。と思ったら2本の後ろ足で着地し、前足をしおりに差し出した。

「ねえ、ファスナー開けて。僕も本が読みたい」

「ミミちゃん、しゃべれるの?」

 しおりは混乱しながらもミミちゃんのファスナーを開け、豆本を取り出した。

「妖精さんがくれた本よ。妖精さんの文字で書いてあるけど読めるかな」

 ミミちゃんは豆本を開くと、しおりに抱かれる時のように胸の前に座り込んだ。

「もちろんさ。今日は僕が君に読んであげるよ」

 しおりはいつも一緒に絵本を読んでいた幼稚園の頃を思い出しながら、ミミちゃんの朗読に聞き入っていた……。


 目覚ましの音で起き上がったしおりは、隣にいるはずのミミちゃんを見る。

(あれ、夢だったのかな)

 座ったままのミミちゃんの膝には豆本が置かれていた。

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