クレーンゲームに夢中な彼女

右中桂示

何がきっかけになるかなんて分からないもんだ

 友達と一緒に来たゲームセンター。トイレから一人で戻る途中に。


 船井さんを見かけた。

 セミロングの髪に縁無し眼鏡。学校で同じクラスだから顔と名前は知ってるけど、ほぼそれだけ。ろくに話した事もない。真面目で成績優秀だった気はする。


 その船井さんが、クレーンゲームに夢中だった。

 真剣な顔付きで、台の正面と側面を行ったり来たりしてアームの位置調整を頑張っている。周りには目もくれず、オレにもまるで気づいていない。


 何をそんなに狙っているのかと思ってこっこり覗き込んだら、アンコウだった。

 魚のアンコウ。中途半端なデフォルメで妙にリアルなデザインの、手のひらサイズのぬいぐるみ。

 周りにはサメやら、ウツボやら、ダイオウグソクムシやらのぬいぐるみが散らばっていた。

 なんだこの台。


 意外な趣味に興味が湧いた。

 連れの所に戻るのも忘れて、しばらく見入ってしまう。


 船井さんは何度も挑戦しては失敗していた。


「あ! お? よしいい感じ……あぁもう!」


 またも意外な事に、なかなかにリアクションが良かった。一人で元気に騒いでいる。

 大人しい子だと思っていただけに新鮮で、見てて飽きないし応援したくなる。

 オレもクレーンゲームは得意じゃないから、口出しせずに見守っていた。


 そうして七、八回目くらいだろうか。

 ようやく細くて頼りないアームが、しっかりとアンコウを掴んだ。


「いけいけいけいけ」


 祈るように手を握り、連呼する船井さん。

 果たしてその願いは何処かに届いたようで。


「やった!」


 アンコウが景品取り出し口へ落ちた。

 遂に獲得したアンコウのぬいぐるみを、船井さんは両手で愛おしげに包み持つ。

 嬉しそうにはしゃいで、ニヤニヤと笑う。可愛いというより面白いリアクションで、幼い子供の頑張りを見るような微笑ましさがあった。

 だけどそんな船井さんが妙に気になって気になって──




 その日以来、オレはずっと彼女の事ばかり考えている。

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