ダンシングオンザパーム

姫路 りしゅう

僕は負けた


 恋人とのプレゼント交換は、デスゲームだ。


 絶対に外せない。相手の予想を下回ってはいけない。上回りすぎても気まずい。

 交換を繰り返すうちに、事前ヒアリングをしても「特にないかなー」と言われるようになる。

 ノープランで一緒に選びに行くなど言語道断だ。


「すずくん、これはなに?」

 今日は僕たちの記念日。事前にプレゼント交換を約束していたので、僕は大きな箱を彼女に手渡した。

「なにって、プレゼント」

「そうじゃなくて……」

 さっちゃんが箱を見ながら叫ぶ。


「女児向けのぬいぐるみじゃん! わたしもう二十一だよ!?」


 僕が彼女に渡したのは、抱きかかえられるほどの大きさをした、ピンク色のうさぎのぬいぐるみだった。


「……お気に召さなかった?」

「いや、今晩抱いて寝ようかなと思うくらいには嬉しいんだけど、だからありがとうなんだけど」

 彼女は丁寧に箱を開封していく。

「え、わたし別にこういうの好きって言ったことないよね。持ってないし。普通こういうときってアクセサリとかじゃない? 二十一の彼女に女児向けのぬいぐるみなんて渡す?」

「嬉しいかなって……」

「いや嬉しいんだよ、嬉しいんだけど、冷静になってね?」

「うん」

「例えば私が記念日のプレゼントだって言って、君に仮面ライダーの変身ベルトとか渡したらどんな気持ちになる?」

「嬉しい」

「そっかぁ」


 さっちゃんは目を閉じて首を振った。もう一度「そっかぁ」と言う。


 少しして、次は彼女が「じゃあ私から」と言って、包装紙に包まれた大きな段ボール箱を手渡してきた。


「……マジ?」

「すずくんならそう言うかなと思ったんだー」


 それは、仮面ライダーの変身ベルトだった。


「嬉しい、今日はこれ抱いて寝る!」

「そっち抱いていいの今日だけだからね」

 なんだか嬉しさと、恥ずかしさと、謎の敗北感があった。


 こうして無事に生き残った恋人同士のデスゲームは、終わるその日まで続いていく。

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