少女はたくましい。
久しぶりのアリサとのお散歩は楽しい。
見渡す限りの草原と、空には僕の何倍あるんだろうと思うほどの大きな太陽と雲がある。まるで……、アリサと一緒に見た絵本の中の世界みたい。
「喉が渇いたし、お腹も空いたわねぇ」
ただ、少し歩くとアリサの元気がなくなる。心配だなと覗き込むけど、怪我とかはしていないみたい。お腹が空く。どんな感じなんだろう。僕には分からないことだ。
「ねえ、アリサ。川があるよ」
「ポテチ、でかした!」
うわっ! 急に元気になったアリサは一目散に川に向けて駆けていく。小川かな? アリサの近所にはなかったくらい綺麗な川だ。
「飲めそうね。一応、流水だし大丈夫よね」
底が見えるほど綺麗な清流だ。僕を横に置いたアリサは、しばし悩んだのちに手で
うふふ、なんか昔に戻ったみたいに無邪気に見える。
「ふー、生き返った」
「お弁当あれば良かったのにね」
パパさんとママさんと一緒にピクニックに行ったことを思い出した。アリサったら両手におむすびを持って嬉しそうに頬張っていたんだよね。
「お弁当ねぇ。というかポテチ、動けるんだ……」
うん、そうみたいだね。さっきから腕とか足が動くんだ。
「そろそろ現実を見ましょうか。私たちきっと異世界に来たのよ! 古くは童話から新しくはラノベまでいろんな前例があるわ!!」
異世界? ああ、アリサがよく読んでいる物語だね。でもね……。
「アリサ、物語は現実じゃないよ」
「なに言ってんのよ。しゃべるぬいぐるみも現実にはないわ。それにポテチ、ほつれていたところ直ってるし」
あれ、ほんとだ。どうしてだろう?
「夢にしては長いね」
「ポテチ、ちょっといい?」
真顔になったアリサが僕を抱きかかえると、なにを思ったのか頬を優しく抓る。
「痛いよ。アリサ」
「ほら! やっぱり! 痛いってことは生きているんだよ。ポテチも!」
うん? 生きている? よく分からない。僕は僕だよ。
「なんかチートでもないのかしら。定番なんだけど」
「チーズ?」
「お約束のボケをしない!」
別にボケたつもりないんだけど。
ただ、アリサはそのまま、『ステータスオープン』とか『ファイヤー』とか訳の分からない事を呟いたりポーズを決めたりしている。
なんか楽しそうで僕も嬉しい。
「ほら、ポテチもやってみて」
なにをすればいいのか分からないけど、アリサの真似をすればいいんだよね?
「ファイヤー?」
「駄目! もっと心から、炎をイメージして未知なる力を感じるのよ!」
よく分からないけど、言う通りにする。だってアリサとこうしておしゃべりしているだけで僕は幸せなんだ。
「ファイヤー!」
……?
…………??
………………???
「今、なんか出なかった?」
「うん。出た」
アリサのお誕生日に見たケーキのローソクを思い出していたら、同じようなものが一瞬出た気がする。
「アリサ、痛い」
また、アリサに頬を抓られた。
「よし、ポテチが後衛ね。私は無理っぽいから前衛になるわ」
意味が分からない。お散歩なら一緒に並んで歩こうよ。
「さあ、旅立ちよ!!」
お散歩じゃないの? 夕ご飯までにお家に帰らないとパパさんとママさんが心配するよ?
「ポテチ、帰り道分かる?」
「ううん。初めて来たから……」
「つまりウチに帰るための旅に出るのよ」
分かった!
一緒にお家に帰ろう!!
少女は大人となり、僕は夢を見る 横蛍 @oukei
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