少女は大人となり、僕は夢を見る
横蛍
少女は大人となり、僕は夢を見る
その日、僕は家族を得た。
色褪せた看板のおもちゃ屋で、ずっと家族になってくれる人を待っていた。周りの友達が家族を得て店を去って行くのを見送り、ずっと待っていた。
言葉も話せず動くことも出来ないけど、ずっと家族がほしいと願っていた。
「パパ! お土産!?」
「ああ、ぬいぐるみだぞ~」
「もう、またこんなもの買ってきて」
「あはは、いいじゃないか。なんか寂しそうに見えてなぁ」
パパさんとママさん、小さな女の子が僕の家族だ。
女の子と一緒に寝起きして遊ぶ。
寂しくないように精いっぱい心を込めて遊ぶつもりで祈る。
一緒にお散歩をして、四季の移り変わりを楽しんだ。
暗い夜や雷が鳴る日は、怖がる女の子を守るつもりで頑張った。
そして……、女の子は大きくなっていく。
女の子は高校生になっていた。
昔ほど一緒にいられないけど、朝晩には声を掛けてくれる。
楽しかったこと、辛かったこと。いろいろと教えてくれる。
「もう捨てたら?」
「ダメ! 私の親友なの!!」
僕のカラダは年老いてほつれなどが見え始めた。
もう、お休みの時間なのかなぁ。
それでも女の子は僕と一緒にいてくれる。
一日数分、一言二言の挨拶だけでも。
「ねえ、ポテチ。ここ何処だと思う?」
ある朝、僕と女の子は見知らぬ砂浜にいた。
パパさんもママさんもいない。見知らぬ砂浜だ。
「夢じゃないかな? さっきまでお部屋にいたよ」
「うん。夢かもしれない。ポテチがしゃべっているし。でもさ、ほっぺを
「……、なんで僕の思いに女の子が返事をしたの?」
「ポテチ、考えていることが声に出てるよ」
パジャマ姿の女の子と僕は、波の音を聞きながらおしゃべりをしている。
そうか。これは夢か。それとも僕は死んだのかもしれない。
「まあ、いいか。ポテチ、夢の中を探検するわよ!」
僕はいろいろ考えてしまうけど、女の子は強かった。何故かあるスリッパを履くと、僕を抱き上げて、昔、お散歩したように歩き出す。
「たんけん? お散歩じゃないの?」
「お散歩かぁ。昔、よく一緒にしたよねぇ」
夢の続き、ほんの一瞬の走馬灯のような時間かもしれない。
でも、大人になった女の子は頼もしく、それでいて昔と変わらず温かかった。
「たまにはこういう自然の中を歩くのもいいわね」
「うん、部屋を出たのは久しぶりだから嬉しい」
「ごめんね。いろいろと忙しくて。帰ったら、また一緒に散歩しようね」
「僕は、君と一緒にいられるだけで十分だよ」
ねえ、アリサ。君と出会えて良かった。
それだけは、伝えておくね。
この夢の中で……。
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