ぬいぐるみ界に閉じ込められた

天西 照実

私はネコのぬいぐるみ


 ぬいぐるみたちの住む世界を冒険する、ファンシーな休暇を過ごすはずだった。



 VRもすたれ、思考回路通信によるゲームが一般的になって幾年月。

 疲労濾過カプセルに入って肉体を休養させながら、精神は疑似異世界で過ごすのだ。


 武器や防具をレベルアップさせ、モンスターを倒していくサバイバル世界。

 モブから英雄になっていく、ストーリー性のあるファンタジー世界。

 探偵となって、事件を解決するミステリー世界も人気だ。


 私は、昭和レトロな生活を体験したり、猫になって昼寝スポットを探したり。

 平和で優しい世界に入るのが好きだった。

 この、ぬいぐるみの世界に入ってみたのも、癒しを求めての事だ。

 私は現在、薄緑色のネコになって、パステルカラーの『ぬいぐるみ界』を旅している。



 連休中、疑似異世界の運営企業が競ってキャンペーンを開催し、史上最多人数が疲労濾過カプセルに入っていたらしい。

 そこを狙われた。

 通信システムが、重篤なエラーを起こしたそうだ。

 テロリスト集団によるハッキングと、細菌ミサイルによる攻撃で都市部は壊滅。

 なぜか無事に海外避難した政府役員たちは例の如く、

『原因究明を急いでいるが国内の細菌濃度が下がらず……』

 と、具体的内容の薄い発言を繰り返すばかりだ。


 疲労濾過カプセル内の肉体は眠り続けている。

 カプセル外に居た国民は、細菌兵器によって帰らぬものとなった。

 その細菌に対応できるガスマスクを装備した大量の泥棒が、国内に入り込んでいるらしい。

 政府役員たちは、

『今回のシステム障害と泥棒の大部分を占める隣国との繋がりは、今のところ不明』

 と、発表している。


 精神を閉じ込められた国民たちは、疑似異世界の中で現実を脳内伝達されている。

 すでに、その脳内伝達も切断している者が多い。

 疲労濾過カプセルへの電力供給が停止するのも、時間の問題だろう。



 私はこの疑似異世界で、ネコのぬいぐるみとして死ぬようだ。

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ぬいぐるみ界に閉じ込められた 天西 照実 @amanishi

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