異世界本屋
九戸政景
異世界本屋
「よし……着いたな」
眩しい日差しと水分を奪う暑さが厳しいある夏の日、俺はダンジョンの中に到達した。ダンジョン内はとても人が多く、その人混みの中に簡単に飲み込まれそうになるところだが、それよりも俺がきついと感じていたのは、このダンジョン内の広さだった。
「……去年はこのダンジョンになす術もなく敗れ、ここを越えた先の“本屋”ではまったく戦えなかった。けど、あの悔しさをバネに俺は今日まで頑張ってきたんだ。あそこに行くために俺は絶対にここを乗り越えてみせる……!」
力強く独り言ちた後、俺はゆっくり歩き始める。恐らく、仲間達は既にこのダンジョンの出口にいて、俺の事を待っているはずだ。だからこそ、早く到着してみんなの顔を見たい。そして今年の俺は成長したんだと感じてもらうんだ。
そんな事を考えながらこれまでに何度も脳内シミュレーションを行った通りに歩き、モンスターからの襲撃にも思える程の人混みにも負けずに俺は一歩ずつ進んでいった。
そしてようやく出口が見え、安堵の息を漏らしながら進んでいくと、そこには頼もしい仲間達の姿があった。
「む、ブイ殿!」
「今年は何事もなく来られたみたいだね」
「待ってたぜ、俺達のリーダー」
「ファイ、マジカ、リース。やっぱりみんなはもう来てたんだな」
「俺達は地元だからな。けど、地方から来てるお前からすればやっぱりこっちは異世界みたいなもんか?」
「こんなにも人が多い上に向こうには無い物も多いからな。そういえば……ファイ、チャットで話していた例の物は?」
それに対してファイは手に持った紙袋を俺に見せてくる。
「もちろん、抜かり無いよ。男女分の衣装は四着とも全部作ってきてるから」
「流石はウチの服飾女子だな。よし……それじゃあ行こうぜ、俺達の戦場へ!」
「うむ!」
「うん!」
「おう!」
そして俺達は、この夏の戦場である
異世界本屋 九戸政景 @2012712
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