第3話 想い人 600文字の物語

 彼女は丁寧に目尻に線アイラインを引く。より多くあの人から寵愛を受ける為。


 朝早くから身支度をすませ、決して派手ではない美麗な服を着て珈琲を入れ言い訳をする。


「ごめんね、少し待ってね。だって折角あなたに会うんだもん寝ぼけまなこじゃ嫌じゃない?」


 そうLINEにメッセージを入れると返事を待たずに姿見の前に立つ。


「うん、大丈夫、まだ着れた。」


 その服は初めてのデートの時、男が褒めてくれた服だった。彼女は鏡の前でクルリと回ると満足そうに部屋を出る。


「今、家を出たからもうちょっと待っててね」

車に乗り込むと直ぐに男にLINEで現状を伝える。





車は郊外の小高い敷地へと入って行く。駐車場に車を停めLINEを打つ。


「ごめんね、今着いたよー、今日は天気がいいね。今からそっち行くからね」


 11月の晴れ渡った日差しの中を、男を想い階段を上って行く。漸く会えた喜びに胸を締め付けられ涙が溢れる。



男の名が刻まれた墓石に震える手を合わせる。



「今日は泣かないって決めてたのに、ごめんね、ごめんね…… 此処に来ると苦しくて……」


男は彼女にプロポーズをした帰りに事故で帰らぬ人となっていた……


「ずるいよ、あたしずっと待ってるんだよ」


―――このままじゃお祖母ちゃんになっちゃう……


「ねえ、何でもいいからお願い返事をして、お願い」


―――お願いだから……



彼女は返って来ないLINEを待ってる。



愛LINEを……



ずっとずっとこれからも……



              

               完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代ドラマ短編集(1話読み切り) 那月玄(natuki sizuka) @hidesima8888

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ