綿ぐるみの相棒【KAC20232・ぬいぐるみ】

カイ.智水

綿ぐるみの相棒

 どんな人にも相棒がいる。

 幼稚園からの幼馴染みの場合もあるし、警視庁刑事課の警部のところへ左遷されてきた刑事の場合もある。

 でも私には相棒なんていない。ずっとそう思ってきた。

 どんなに友達が相棒を自慢してきても、私にはそんな者は存在しなかった。


 しかし三歳のある日、お父さんが旅先で買った「クマゾウ」をひと目見たときに。私は得心したのだ。これは運命なのだと。

 その日の夜から、クマゾウは私の添い寝の相棒となった。クマゾウを抱いていれば、ひとりでだって怖くない。安心して眠りにつけるのだ。クマゾウを抱いて寝るようになってから、おねしょもしなくなってお母さんに褒められるようになった。やっぱりクマゾウは私にとって最高の相棒なのだ。


 あれから十五年が経った。今もクマゾウは私の相棒である。週に一度は洗濯をしてよく乾かしていたので衛生面もばっちり。縫い付けられていた目がとれかけたときも、お母さんがすぐに直してくれた。縫い目がほつれて中の綿が覗いたときも、布の切れ端で継ぎ当てしてくれた。

 だからクマゾウは、私が初めて出会った頃とは大きく様変わりしていた。はたから見ればもはやただの汚いぬいぐるみでしかない。それでも、クマゾウは私の相棒でい続けているのだ。

 初めて恋した日も傍らで相談に乗ってくれたり、初めて男子と付き合った日も感情を共有してきた。そして初めて恋に破れた日も……。

 どんなに汚れたって、クマゾウは私を見放したりしない。

 いつも変わらぬ笑顔で私を見守ってくれていた。


 そんな私を見かねてか、父はインターネットで新しいクマゾウを購入してくれた。でも、私にとってクマゾウは継ぎ接ぎだらけのこの子しかいない。新品のクマゾウなんてニセモノに過ぎないのだ。クマゾウはただひとりの私の相棒。

 だから私は新しいクマゾウを机の上に置いたまま、今日も“いつものクマゾウ”と一緒に眠りにつく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

綿ぐるみの相棒【KAC20232・ぬいぐるみ】 カイ.智水 @sstmix

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ