人工知能に恋を託して

だずん

人工知能に恋を託して

 私、理佳りかは本屋に立ち寄っている。

 どうしてかっていうと、人工知能を作るための技術書を探しているからだ。




 私は中学2年生だけど、高校数学の内容だってわかっている。別に私が天才ってわけじゃなくて、ただ単に『こうなれば、ああなる』ってことを知るのが好きなだけなんだけど、周りは全然理解してくれない。論理的に考えるのってすごく理にかなってて楽しいと思うんだけどな。別に計算を沢山するなんてものは私だって好きじゃないけど、どうしてそうなってるのか知るのは楽しいはず。


 そんな私が作りたいと思っているのは、悩みを相談してくれる人工知能。


 どうしてそんなものを作るのかというと、最近、私が深い悩みを抱えているからだ。


 その悩みは恋。


 同級生の心音ここねのことを好きになってしまったのだ。

 ネットの海から様々な情報を集めて、これは恋というものなのだろうと思った。


 だから心音と付き合いたいと思うのも当然なんだけど、人付き合いを論理で解決するのはまだ私には苦手らしく、どうしたらいいのかわからない。

 きっとまだ論理的思考力が足りてないのだろう。


 そこで、もっと高度に論理的な考えを出してくれると信用している『機械』――今回の場合は人工知能だけど――にその解決方法を委ねてみようということで、人工知能の作成を画策してるってわけ。




 本屋の中を眺めて技術書のコーナーを探していると、文庫本の棚が目に入る。


 心音がああいう本をよく読むことを思い出した。好きなのかな?

 そういう本――小説とかは何を言ってるのか私にはよくわからないから敬遠してるんだけども。国語の授業だって苦手だ。


 それはいいとして技術書、技術書……。

 あった。


 技術書のある本棚から目的の品を見つける。

 裏表紙を見てみると、4000円と書いてある。


 おー、いい値段だ。

 とはいえ、勉強のための本なら母がいくらでも出してくれるから、全然気にすることはない。これが勉強だとは思ってないけども。


 それから人工知能を作るための高性能なGPU――これは本来負荷の重いゲームをするためのものなんだけど、人工知能を作るためにも役に立つもの――を搭載したPCを父が持っていて、私が使いたいと言ったら貸してくれるから、人工知能を作るための問題は全て解決できる。他の事はネットを漁ればだいたいなんとかなるし。




 そんなわけで本を買ってお家へ帰ってきた。

 読むぞ。




 ……。だいたいわかった。

 作るぞ。




 ……。できた。


 ゴールデンウィークを全部費やしたけど、これで完成のはず。私はやる気にさえなれば早いんだから。すごい集中力で、大変なことだってすぐ終わらせちゃう。


 肝心の質問をこの人工知能に聞いてみよう。


「心音と付き合うためにはどうしたらいいの?」


 そうして返ってきた答えはというと。


『まずは好感度を上げることが大切です。なぜならば、自分への好感度が高い人ほど付き合える可能性が高くなるからです。好感度を上げる方法としてはプレゼントを贈る事などが挙げられます。その際、相手が好きなものを贈ると好感度がより高くなるでしょう。』


 なるほどなるほど……。よし、じゃあ贈ってみよう。

 人工知能の言うことはすごく論理的なはずだから、きっと合っている。


 心音が好きなのは小説。小説の中でも特に恋愛系のものが多かった気がする。

 ちょっと本屋で見てみようかな。




 本屋に入って小説が置いてある棚を眺める。

 たくさんあるなぁ。

 タイトルや絵柄から恋愛系と思われる小説もたくさん置いてある。

 果たしてどれを贈ればいいのか……。


 『機械に恋する少女』


 そうタイトル付けされた本が目に入る。

 ちょっと気になる。まあ私は読まないけど。

 これだったら心音も読んだことないんじゃないかな。


 そう思って、その本をレジに持っていく――






 いざ決戦の日。

 心音にこの本を渡すために、私は下校時間の校門で待ち構えていた。

 この場所この時間なら必ず心音に出会えるはずだ。

 友達ってわけじゃないから、ふたりきりになるためにどうすればいいか考えた結果こうなった。論理的思考力がアップした気がする。


 そうして待っていると心音がやってきた。

 ちょっとドキドキする。この現象はやっぱり謎だ……。

 とにかく声を掛けなきゃ。


「あの……」

「ん? えーっと、理佳ちゃんだっけ?」

「うん、その……これ、プレゼント」


 私はその本を心音に見せる。

 人工知能がこの方法で間違いないと言ってたから大丈夫なはず……。


 だからその本を渡そうとしたけれども、何故か心音が困った表情をしていて。


 それを見た私の手は固まって、言うことを聞いてくれない。


「えっと、どういうこと……? 私たちそんなに仲良いわけじゃないし、そもそも誕生日とかでもなんでもないんだけど。こ、怖い……」


 どうして?

 私の頭は疑問符で一杯になって混乱する。


「え、あの……」


 どうしてだろう。胸のあたりが苦しくなって涙が出そうになる。

 また『どうして?』の波がやってくる。


「あー、えっと、理由があるんだよね? ごめんね。ちゃんと理由も知らないのに拒む態度なんか取っちゃって。じゃあ、どうして私にプレゼントを贈ろうと思ったのかよかったら教えてくれる?」


 理由ならいくらでも。


「心音と仲良くなりたかったの。でも、どうやったら仲良くなれるのかわからなくて……。だからその悩みに答えてくれる人工知能を作って答えてもらったの。プレゼントを贈ったらいいよって。それで心音がいつも本を読んでるの思い出して。確か恋愛関係のものが多かったなって思って、これを選んだの。これを贈れば仲良くなれるかなって……かなって……思って……」


 いつの間にか涙が頬を流れ落ち、喉がつっかえて喋れなくなっていた。

 どうしてなのかは何もわからないけど。


「あー、わかったから泣かないで~。そっかそっか。私と仲良くなりたかったんだよね。ごめんね気付いてあげられなくて。……人工知能を作ったっていうのは凄すぎる気がするけど。まあえっと、そんなことはどうでもよくて! とにかく仲良くなろっか。この本、ありがとね!」


 声が出せない私は頷いて返答をするだけ。

 でもなんだかすごく嬉しい気持ちになった。



 やっぱり人工知能は間違ってなかったんだ。でも、いくら何でも遠回りな気がする。涙が流れる方法だったとは聞いていない。もっと改良しないと。


 そうしないと『付き合う』という目標を達成するための答えを得られないような気がする。今度は恋愛小説を人工知能に読ませて学習させてみようかな……。

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