書店フロアでの殺人

ヤミヲミルメ

床に散らばる本の謎

 親愛なる我が読者よ!

 キミにこの謎が解けるかな!?




 事件の舞台は書店の売り場フロア。

 犯行時刻は閉店後の午後十一時。

 被害者はこの店の店長だ。


 店長は鋭利な刃物で頸動脈を切られ、血しぶきは天井にまで届いていた。

 売り物の本は血まみれで、平積みのものなどは表紙も判別できないほどだった。


 書店の防犯カメラは電源が切られていたが、近隣の店の防犯カメラの映像により、犯行時刻前後に外部の人間の出入りがなかったことが判明している。

 事件当時、店内にいたのは、被害者である店長のほかは三人の店員だけだった。



 遺体の第一発見者は店員A。

 Aの悲鳴を聞きつけて店員Bと店員Cが駆けつけたわけだが……

 ここで一つ問題が起きた。


 被害者から流れ出た血溜まりで足を滑らせてBが転倒。

 弾みでAを突き飛ばし、倒れている二人につまずいてCも倒れた。

 三人とも怪我はないが、店長の血が全身に付着してしまった。

 この騒ぎにより犯人の足跡などいくつもの証拠が失われた。


 しかし安心したまえ。

 事件を解決するに足る手がかりは残されている。




手がかり①


 三人の店員は、店のイベントのために仮装をしていた。


 Aは赤鬼。


 Bは雪だるま。


 Cはチョコレート職人ショコラティエ




手がかり②


 被害者は本棚が向かい合う通路で、北側の本棚にもたれるようにして絶命していた。


 被害者がぶつかった衝撃で、北側の本棚からは数冊の本が落下していた。


 一方、南側の本棚からは全ての本が抜け、血溜まりの中に散らばっていた。


  ↓


 犯人は三人の店員の中にいる。

 店長を殺害したのはA、B、Cのうちの、果たして誰か?

 現場の状況から犯人を特定せよ。

 さあ、我が読者よ、シンキングタイムだ!



  ↓


  ↓


  ↓


  ↓


  ↓



 正解発表だ。

 犯人の名前を明かす前に、まずはいかにすれば犯人を特定できるかを明かそう。


 ここは書店の売り場フロア。

 床には血溜まり。

 血溜まりには、南側の本棚から抜き出された本が散らばっている。


 この本を、本棚に戻してみよう。


 ああ、ベッタリと血が付着している。

 だが汚れているのは下になった面だけで、反対の面と背表紙はキレイだ。


 これらの本をもとの位置に収めるんだ。

 なぁに、作家名を五十音順に並べるだけだ。




 ……ふぅ。さすがに少し疲れたな。

 しかしこれで犯人が本を本棚から落とした理由が見える・・・だろう。


 本棚一面に並ぶ背表紙。

 そこに広がる血しぶき。

 被害者の血だ。


 その血しぶきが、真ん中の辺りだけ不自然に途切れている。

 被害者が血しぶきを上げたとき、犯人はこの本棚の前に立っていたんだ。


 だから犯人の形の分だけ、本棚に血がかからなかった・・・・・・・


 犯人が人の形をしていたなら、わざわざ隠す必要はない。

 犯人が人間だってわかるだけだからね。

 だけどほら、見てごらん。


 血しぶきに抜け落ちたシルエットは、赤鬼でもショコラティエでもなく……

 雪だるまの着ぐるみの形をしている。


 犯人は店員Bだ。





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