僕と本屋とあの店員

この本屋は、町の本屋という感じだった。


一軒家でやっているようで、二階と奥は住まいのようだった。


店内は小さく今どきの本は一切ない。

だが、ホコリの被った超スーパーレアな本が山ほど置いてあった。


僕がこの本屋に来るのは初めてだった。


僕は、数十年前に出版されたものの、すぐに出版中止になってしまった本を探していた。

出版されてからすぐに中止になったため、冊数はものすごく少なく、ネットで少し検索すれば、大人でも買うのを躊躇うような値段でオークションにかけられているのがわかった。

『学生の僕では到底手が出せない』と僕は悟って諦めていた。


だが普段から本屋巡りが趣味な僕は、この本屋を見た瞬間、僕の『本センサー』が異常なほどに反応したため、迷わず入店した。


だが今は、ほんの少し後悔している。

もう少し店内を確認してから入店するべきだったと。


外観からすると定年退職した老夫婦が、こじんまりとやっている本屋だろうと思ったが、実際入店してみると、もっさもさの頭の、少しすらっとした男子大学院生みたいな人が一人居るだけだった。


店員の顔は全く見えず、雰囲気は地味で、不思議な感じなのが入店してすぐにわかった。


だが、人を見た目や雰囲気で判断してはいけない。そう思い店内を見回した。


するとこの本屋には、レアな本ばかり置いてあることがわかった。

いや、しっかり言おう。超スーパーレアな本しか置いてない。

それも定価で売っていた。


有り得なさすぎて、夢かと思い大声で叫びそうなった。

だが、僕は叫ぶ寸前に理性が働いて、醜態を晒さずに済んだ。


僕は、ここの本を全部買い占めたいと思った。

だが学校帰りで、学生の僕にはそんなお金はない。


そのため、探していた本だけ買って帰ることにした。

本当はもっと、じっくり店内を見学していきたいが、話しかけられた時に『関わっちゃいけない店員だ』と確信したので即座に諦めた。


僕の予想では、老夫婦がやっている想定だったため、変な店員が店内にいるが、会計は心優しい夫婦が出てくると思った。

だが、会計の時まで出てこないとなると、この店にはこの変な店員しかいないことになる。


『やっぱりもう少し店内を確認してから入店すればよかった。日にちをずらすとかして、この店員がいない日に来ればばよかった』と会計をしながら思っていた。


会計を終えさっさと帰ろうとした時、


「ねぇ、きみ本好きなんだよね?」


『さっきと同じ質問してるし、なんなんだよ』と僕は思いながらも、

「まあ」と返事をした。


「きみ、相当本好きだろ。その本を選んで買うってことはさ。

というか、この本屋に入った時点で、相当な本好きだろう」

「なんなんですか」

「ここに置いてある本みてどう思った?」

「はぁ?」

「ないなら別にないでいいんだけど」


イラっとしたのでさっさと答えて帰ることにした。


「超スーパーレアな本しか置いてないな。と思いましたけど」


「うん・・・合格!」


「は?」

「ここの本自由に読んでいいから、働かない?明日から。ああ、もちろん学校終わりでいいからさ」

「わかりました」

「そう!じゃあ、よろしく〜」


そう言われ僕は店内を出て、ルンルン気分で帰り道を辿っていたが、時間差で理性が働き立ち止まり一人つぶやいた。


「僕さっき『わかりました』って言った?

というかその前に『働かない?』って誘われたよな。

それに対して二つ返事でOKしたよな、僕・・・

ああ、またやってしまった」


僕の悪い癖だ。本が絡むと考えなしに行動したり返事をしてしまう。


だが、もう返事をしてしまった。承諾してしまったため、拒否はできない。

『ああ、最悪だ。』そう思いながらも、僕は心の奥底で、『あの本達が自由に読めるんだ』と思うと、やはり少しワクワクしていた。


ほんの少しだけ、明日が来てほしくない気持ちもあるが、早く明日が来ないかと待ち遠しい気持ちもある。


あの店員と、超スーパーレアな本達と比べると、やはり本が勝る。


その日ちょっぴりルンルンな僕は、帰り道をまた辿った。



この時は知らない。


僕とあの店員とこの本屋の出会いが、こんな僕の人生を変えてしまう事を。


『この時の僕は、まだ知らない』

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僕と本屋とあの店員 古味矢川 侑 @KomiyagawaYu

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