真夜中のクレーンゲーム

押見五六三

全1話

 初めて訪れた街なのに、調子に乗って遅くまで飲みすぎた。

 駅前まで来たが最終電車はとっくに出ており、タクシーも見当たらない。

 タクシーを呼ぶのも面倒だし、俺は始発まで何処かで時間を潰すことにした。


「てかっ、人通り全然無いな。まあ、平日だもんな……」


 もう丑三つ時を過ぎていた。

 駅前から寂れたアーケードの小さな商店街が見えたので、そちらに向かう。

 飲み屋は全て閉まっていたので、ネカフェや24時間営業のファーストフード店を探して歩き回ったが、見つからない。

 スマホの情報が古いのか、開いてるはずのコンビニさえも閉まっていた。


「何だよ。何処も開いてないのか?弱ったな……」


 閑散とした商店街に俺の靴音だけが響く。

 人どころか生き物の気配がまるで無い。

 こんな薄気味悪い体験は初めてだ。


「あれ?明かりが灯ってる……」


 諦めて駅前に戻ろうとした時、前方に微かだが明かりが見えた。

 近づいて確認したら小さなゲームセンターだった。中はかなり薄暗い。

 奥に人影らしき物が見えたので、営業しているのだろうと思って迷わず入る。

 だが店に入ると、店先から見えたはずの人影は消えていた。

 見間違いだったのだろうか?

 中には誰も居ない。無人だ。

 狭い店内には十数台のクレーンゲームが置かれていた。どうやらクレーンゲーム専門店だ。

 かなり傷んだゲーム機の中には、見たことも無いキャラクターのぬいぐるみが沢山入っている。何故かどれも頭や手足が取れかかったぬいぐるみだ。中の綿まで見えている。


「何だこれは?不良品か?それとも今はこんなのが流行ってんのか?」


 海外のホラーアニメに出てきそうな、どこか不安を感じる怪しい顔のキャラクター。こんな不気味なぬいぐるみでも、今はキモカワとか言って子供とかは欲しがるのだろうか?最近ゲームセンターに来て無かったのでトレンドがよく分からない。

 とりあえず俺はここで時間を潰す事にした。興味の無いぬいぐるみばかりだが、仕方ない。

 財布から取り出した百円を入れてクレーンを動かす。久しぶりだが学生の頃はよくやっていた。昔取った杵柄だ。クレーンは一発で狙い通りにぬいぐるみを掴み、上に持ち上げる。確実にゲットしたと思ったが……。


「えっ?!ウソだろ?!」


 ぬいぐるみは一番上に持ち上がった瞬間、頭や手足が取れて落下した。掴んだぬいぐるみはバラバラに成ってしまったので、クレーンのアームから外れたのだ。


「何だこのぬいぐるみ!腐ってんのか?」


 俺は台を変えて別のぬいぐるみにチャレンジするが、クレーンで掴んで上に持ち上げると、又頭や手足が取れてバラバラに成り落下する。

 ムキになった俺は台を変えて何度も何度もチャレンジするが結果は同じだった。

 気付けば1万円ぐらい使っていた。


「巫山戯んな!!こんなの詐欺だろ?おい!店員、何処だ!!出て来い!!」


 叫んだが、店内は静まり返ったままだ。

 動く物は何も無い。

 俺は今更ながら不自然に思い、店を出ようとしたら、目の前の台のクレーンがお金も入れてないのに勝手に動き出した。


「何だ?俺、ボタンも触ってないのに」


 クレーンはぬいぐるみを一体掴むと、上に持ち上げた。

 そのまま取り出し口へと続く穴の上に運ぶ。

 頭や手足は捥げそうだがバラバラに成る事はなく、ぬいぐるみは穴に落とされた。


「……サービスかな?なら貰っておこう」


 俺は取り出し口に手を突っ込み、落ちたぬいぐるみを取ろうとしたが、ぬいぐるみが無い。


「あれ?確かに落ちたよな?」


 しゃがみ込んで手を更に奥に突っ込んだ。

 その手を誰かがいきなり掴んだ。

 取り出し口の中から……。


「なっ?!」


 俺は慌てて取り出し口の中を覗いた。

 そこにはが居て、俺の手を掴んでニヤけていた。


「お客さん……勝手に取らないで下さいよ……」


「うわああああぁぁぁぁ!!」


 俺はそのまま手を引っ張られ、中に引きずり込まれた。ゲーム機の中に……。


〈おしまい〉




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