神皇歴2659年3月16日
お兄さん
僕は、絶対に、この日の事を忘れません。
今、僕の眼の前で、僕のお母さんは、眠っています。
お母さんは、とってもキレイな人で、僕はお母さんの事が、誰よりも、大好きでした。でも、大好きだった、あの笑顔は、もう二度と、見る事は出来ません。
お母さん。
本当に、ごめんなさい。僕が、昨日の夜中に、家から抜け出していなかったら、お母さんは、こんな事にならなかったのかもしれません。
昨日、15日の夜は、お月様が真ん丸の日で、だから僕は、ヤツ大の真似がしたくて、夜中に、秘密基地へと行っていました。
お月様が、一番高い所に昇った頃だったと思います。村の方から、大きな音がしました。
不思議に思った僕は、急いで秘密基地から村を見下ろすと、村のあちこちが、火事になっていました。
お母さん。
ごめんなさい。急いで、家に帰って来ていたら、お母さんは、こんな事にならなかったのかもしれません。
だけど、僕は、大きな音と、火事を見て、怖くて、怖くて、秘密基地から動けませんでした。
僕は、後悔しています。
あの時、怖くて動けなくて、だから秘密基地で、縮こまって寝てしまいました。寝て起きたら、全部、何事も無かった様に、またいつもの毎日が始まるんじゃないか、って、思っていました。
だけど、そんな事はありませんでした。
寝て起きて、明るくなって、僕は家に戻って来ました。でも、その時にはもう、お母さんは、僕の呼び掛けには何も応えてくれませんでした。
お母さん。
僕は、約束します。絶対、いつか、カタキを討って見せます。
今日、不思議なお兄さんに会いました。不思議な言葉を喋る、不思議な格好をしたお兄さんです。
見たことも無い、不思議だけど、真っ白でキレイな服でした。言葉が全然通じなくて、だから、僕は思いました。
あのお兄さんは、きっと、絵本にも出てきた、使徒様です。この村の伝説にも出てくる、あの、使徒様。
だから、僕は使徒様に、お願いしました。
いつか、お母さんのカタキを討つ、その為に、僕は強くならなくちゃいけません。使徒様と一緒に、冒険に出れば、そして頑張って修行をすれば、きっと強くなれると思ったからです。
僕が必死にお願いをすると、使徒様は、僕の頭を撫でて、頷いてくれました。
使徒様の名前は、イオリっていうらしいです。
だから、お母さん。
お母さんと、お別れするのは辛いけど、僕はいつか、イオリと一緒に、この村を出て、大好きな山賊ヤツマタみたいに、大冒険をして、勇者になって、村の皆のカタキを討ちます。
お母さんは、この村から、僕を見ていて下さい。
イグニスの大冒険 ~やがて勇者と呼ばれる少年~ chomocho@処女作執筆中 @chomocho
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