本なんて

紫陽花の花びら

第1話

「みっちゃんはずるい。扁桃腺が張れると学校休めてさ。そしてさ本屋さんで本買って貰えるんだもんだもん」

弟のかずが羨ましがる。元気印のかずには学校を休めることも、本が増えていくことも羨ましいんだ。

「でもさぁ、私は学校の方が良いな。本屋さんなんて行きたくないもん。学校に行けば図書室あるし」

かずは膨れたホッペタをすぼますと

「そりゃそうだけど。マンガないじゃん」

「かず、お姉ちゃん疲れるからいい加減にしなさい。また今度本屋さんに連れて行ってあげるから」

かずは私の布団をかけ直しながら

「みっちゃん……後で本見せてね」

そう言ってにっこり笑うと行ってしまった。

あぁもう嫌だ! 本なんて嫌いだ。大っ嫌い! 本屋さんなんていらないよ! 元気が良いに決まっている。それに……明日は遠足なのに……なおちゃん達は今頃おやつ買ってるよね。

おにぎりとサンドイッチ交換する約束したのに。涙が零れる。大きな声で泣きたいけど、熱が上がるって怒られる。

 十日後私は学校に行った。その日の図工の時間は遠足の絵を描く事になった。行けなかった事を図工の先生に伝えると、最近読んだ本で皆に教えてあげたいって思ったことを絵にしてみたらと言われた。嫌だった……そんなの嫌だった。自分だけそんなの嫌だったけどしょうがない。読んだ本を頭に浮かべてみた。荒波に浮かぶ船と十五人の少年の顔、私の想像した主人公たち。描いていると、楽しくなって読んでいる時の興奮が蘇って来た。気が付くと、周りにクラスメートが集まっていた。

「すげ柴田うめ~」

「面白かった?その本」

「みっちゃん、後期図書係やんなよ。本の紹介とかしたらみんな喜ぶと思うな!」

なんか凄く嬉しくなった。

みんなに私の読んだ本の面白さが伝わったことが。

それから後期図書係になった私。

本が嫌いな私が本を紹介するなんて不思議。病気は嫌い。でも本屋さんと本は好きになった私。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

本なんて 紫陽花の花びら @hina311311

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ