古本屋の恐怖

辺理可付加

古本屋の恐怖

 松実まつみが古本屋を訪れると、シンイチはレジで背中を丸め目をギラつかせていた。

異様な光景だが彼に呼び出された手前、回れ右するわけにもいかない。


「久しぶり」

「……最近おかしいんだ」


当たりさわりのない挨拶から入ったのにシンイチは応じない。松実はを隠して用意された椅子に腰を下ろした。


「で、何があったの」


シンイチは答えず、店の一番ところにある本棚を顎で差す。松実が首だけ伸ばしてそちらを見ると、



「げっ!!」



そこには大量の背表紙が。


シンイチが碇ゲ◯ドウのポーズで呟く。



「最近、毎日同じ本が売られにくるんだよ」



「な、なんだって……?」

「多いときは日に三、四回、しかも毎回違う人間が!」

「なんちゅうこと……」

「それが毎日毎日毎日毎日一ヶ月ずっと! 何人もの手によって途切れることなく『桃子らぶらぶ日記♡』が僕のところにやってくるんだよ!!」

「えぇ……。そこはなんか普通にホラーの方がマシだったな……」

「毎度毎度まったく同じの、しかも程度が低いエロ本持ってこられて僕はおかしくなりそうだ!!」

「さてはお前、本の内容の方がメンタルにキてるな?」


松実は震えるシンイチの肩を軽く叩いた。


「よし、任せろ。これでも職業警察官、この怪事件の真相を突き止めてやるよ」

「頼む……」


項垂うなだれたシンイチの肩をもう一度叩くと、松実は早速古本屋を飛び出していった。捜査になのではなく、単純に居たたまれなかっただけなのは言うまでもない。






 数日後、松実は古本屋を再訪した。


「おーいシンイチ、真相が分かったぞ!」

「本当か!?」


あれからも途切れることなく有害図書は売りにこられたわけだが、売った人間を尾行した彼がつかんだ真実はこういうことだった。



「ありゃ自費出版爆死して在庫抱えたやつが、友人と手分けして変装しながら売りにきてただけだ。同じ本何冊も売るのが恥ずかしかったんだろうな」

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古本屋の恐怖 辺理可付加 @chitose1129

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