夕暮れの頃
横蛍
夕暮れの頃に
仕事帰りに本屋を巡るのが日課だ。
特に欲しい本があるわけではないが、週刊誌や漫画、それと表紙や題名から気に入った本をたまに買うだけ。
取り立てて趣味らしい趣味がない私の唯一の楽しみだ。
いつからか大手の店が進出したりインターネットでの書籍の購入が当然となったりして、子供の頃にあった町の本屋は姿を消している。
亡き両親と行くのが楽しみだった近所の本屋。子供たちが集まり立ち読みをしても汚さない限りは怒られない。おおらかな時代だった。
「ああ……、そうか」
そんな町の本屋を潰したのが誰だとは言わない。ただ、私が高校生の頃に出来たレンタルビデオ件本屋を営む大手チェーン店の店頭には閉店のお知らせがあった。
馴染の書店が潰れた時にはこの店を恨むこともあったが、よく利用したのも事実だ。
ビデオがDVDやブルーレイとなり、今は動画配信が主流だ。夕方だというのに店内に客はまばらで危ないかなと思っていた矢先のことだ。
とりわけ思い入れはない。機械的な接客サービスしかなく、近頃では会計がセルフになったことで話をする機会さえ失っている。
店員も書籍に疎く、インターネットで買うのと変わらないなと思っていたくらいだ。
書籍コーナーをぶらりと歩いてみる。こういうことが出来る店がまた減る。それだけは悲しい。
同じ本屋でも店により力を入れている分野があり、入荷する本が変わる。インターネットで検索をして買うことはないだろう本をいくつも買ったものだ。
毎日のように本屋に来ていると、一度は見たことがある本ばかりだ。
どの分野でも同じだが、本もまた無数に出版されては消えていく。話題にならず人目に触れることもなくひっそりと。
その本は本棚の片隅にひっそりとあった。
『書店攻略マニュアル』
まったく今の時代にマッチしない題名だ。
こういう本を見るとつい手に取ってしまう。
本との一期一会。
ただ、それだけのために。
夕暮れの頃 横蛍 @oukei
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