隠せてるつもりだったんだろうなぁ、可愛いな

藤崎珠里

1

「あ、麻耶まや、今日も来てくれたんだ」


 栗色の髪をふわふわと巻いた、可愛い子。背が低くて小動物みたいで、だけど握力は40キロある。

 それが私の親友、小桜こざくら汐香しおかだ。

 彼女がバイトをする本屋に、私は週三で通っている。


「やっほ。今日も頑張って」

「ありがと~。麻耶はゆっくりしてって」

「おー」


 本棚を整理する汐香に手を振り、程よく離れる。そうして別の本棚に隠れて、こっそりと伺う。

 ストーカーみたいな自覚はあった。

 いやでも、だって。あのちっちゃくて可愛くて馬鹿力な汐香が、あくせくと働いているのだ。

 そんなの眺めたいに決まってる!

 ちなみに、この行為は汐香に気づかれているので公認である。


 あーあ、頑張ってて可愛いな。

 ――あの子、私の恋人にならないかなぁ。


 恋心を隠して親友でいるのって、かなりの罪悪感。

 それでも、そばにいたいから。死ぬまで隠し通すつもりだ。



 汐香がレジに移動したので、私も移動する。

 何も買わないのも申し訳ないし、漫画でも買ってそろそろ帰ろう。

 追っている漫画の新刊を持ち、人のいないタイミングを見計らってレジに向かう。汐香と話したいので。


「お願いします」

「カバーなし、袋なしでクレジットカード払いですねー。495円です。いつもありがとうございます」


 何も言わなくても全部済む。さすが汐香、有能。

 私の買った漫画を見て、汐香はちょっと意外そうな顔をした。


「普段少年漫画ばっかりなのに、少女漫画も読むんだ? ならもうちょっときゅんと来るアプローチしてくれたら嬉しいのになー」

「いや、ああいうのはイケメンがするから許されるのであっ、て……?」

「あっ、アプローチされたいほうの可能性考えてなかった。そっかぁ、わたしが頑張らなきゃだったか」

「……え!?」

「ありがとうございましたー、またお待ちしております」


 にっこりと見送られてしまって、私はスペキャ顔で出口に向かった。


 ……そういうこと!?

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隠せてるつもりだったんだろうなぁ、可愛いな 藤崎珠里 @shuri_sakihata

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