今日の天気はダイヤモンド

西しまこ

第1話

 僕はライラと会うのをとても楽しみにしていた。


 太陽が長老の樹の上に来たとき、僕はなんでもない顔をして、虹の境まで行く。そして、そっと虹の紫の部分に手をやる。ライラも虹の向こう側から紫の部分に手をやる。そして、一瞬虹の境の一部が解けたとき、僕たちは虹の境のたもとで会うのだ。


 ライラは魔法に興味津々で、いつも目を輝かせて僕の魔法を見てくれた。

「じゃあね、今日は細氷さいひょうの魔法をやるよ」

「うん!」

 ライラは目を輝かせる。

 僕は両手を、手のひらを上にしてボールを抱えるような形にして、目を閉じて念じた。

「わあ……すごい、きれい……」


 ライラの声に、僕は目を開けた。

 手のひらから、とても小さい氷の結晶がゆらゆらと立ち上っていく。

「ライラ、見てて」

 僕は強く念じて、氷の結晶が出る範囲を広げた。

 僕たちは小さな小さな氷の結晶がいくつもいくつも浮かぶ中にいた。氷の結晶は太陽の光できらきらと輝いた。

「モーブ、すごい! ダイヤモンドの中にいるみたい!」


 ライラは氷の結晶の中をくるくると回ってスカートのすそを広げながら、踊り歩いた。時々、氷の結晶に手を伸ばすけれど、それはすぐに消えてしまうようで、ちょっと悲しい顔をした。その、眉根を寄せた顔がかわいくて、僕はたくさんたくさん、小さな氷の結晶を出した。


 僕たちは長老の樹の根元に二人並んで座って、小さな氷の結晶がきらきらして、そして次第に消えていくのを眺めた。どちらともなくつないだ手がとてもあたたかくて、僕はとても幸福な気持ちで、それを眺めた。

 ライラの頭が僕の肩に乗り、僕もライラの頭に自分の頭を乗せた。

「きれいだね」

「うん、きれいだ」

 小さな氷の結晶は、陽の光が当たって、ほんとうに幾百ものダイヤモンドのようだった。


「あたしね」

「うん」

「あたし、今日のこと、ぜったいに忘れない」

「僕も」

 そろそろ帰る時間だった。太陽の光が斜めに傾き始めた。

「……行かなくちゃ」

「うん」

 僕たちは名残惜しく思いながらも立ち上がり、虹の境に行った。


「じゃあ、また明日ね」

「うん、また明日」

 ライラは虹の向こう側に行くというときに、振り向いてきらきらした笑顔で言った。

「今日の天気はダイヤモンド! すっごく素敵だった。ありがと、モーブ」

 僕は嬉しくて頬を緩めながら手を振った。


 きみの笑顔もダイヤモンド。大好きなライラ。



   了


一話完結です。

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☆関連したお話☆

「森の中の家」https://kakuyomu.jp/works/16817330653163269371

「虹の向こう側へ」https://kakuyomu.jp/works/16817330653710184262

時系列は「虹の向こう側へ」→「今日の天気はダイヤモンド」→「森の中の家」


☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆

https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000

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