第91話 流星

091 流星


アンナ製造工場は、秘密裡に市ヶ谷駐屯地内に移設された。

自衛隊の多くの将官は、影野の魔眼により精神を支配されている。

そこで、アンナがひそかに製造され世界の各地に配布されていく。


彼女らは、あらゆるものをハッキングする技術を習得している生物である。

あらゆる戦闘術を習得している生物である。


通常の人間では倒すことはできない。

武器で倒すことはできるが、その前に反応するぐらいの運動神経はもっている。

ある種の特定の武装兵器を操る才能も持っている。


彼女らは、『パーフェクトソルジャー』そして、彼女らの決戦兵器は、習志野駐屯地にひそかに格納されている。


「マスターシャドウ、あなたと第NRL12298方面軍、99976・・・独立地球軍の司令官に任じる」やたらに長い部隊名称である。名称を覚えることを諦める程度には長い。


そもそも、地球は俺のものではないのだが、決してそんな不遜なことを口にしてならないと肝に銘じて「はい、ありがとうございます」と莞爾と笑顔で敬礼する。


「我が第NRL12298方面軍99976・・・・・、強襲上陸艦隊所属艦『!“#$$$』は、サンプルを回収し、新たな開拓へと出発することになる。」

画面の向こうには、表現できない何かが、何語?かをしゃべっている。

決して、人類と相いれない何かの生物に見えるが、言語はきちんと翻訳されているので意味は分かる。

きっと何とか星人なのであろう。

せめて、バルタ〇星人ぐらいの造形があれば嬉しかったのだが、期待は裏切られた。


流石に勇者の精神力でないと、悲鳴を上げそうだったが、当然であるという風に流していく。


サンプルは、なんらかのカプセルの中にいた。

顔は、北畠の顔であったが、遺伝子は操作され、俺の遺伝子を複製するように改変されている。改造人間である。簡単に言うと、仮面〇イダーだ。

いや、冗談だ。俺の精子を製造する袋をもった北畠である。

量産型アンナさんは、そのような、生命テクノロジーも簡単に操っているのである。

まさに、人類の夢の技術。しかし、画面の向こうにいる何かが支配しているのだと思うと、手放しに喜ぶことができない。


そして、今、勇者永田との細胞も培養されている。


もし俺が回収されたら、あのなんとも言えない何かに直接いじられることになるのかもしれない。背筋には、冷たいどころか冷凍されているような冷たさを感じる。


「北畠、貴様は立派に私の弾避けをこなしてくれた」目を開けることなく眠り続ける北畠に敬礼する俺。

「ありがとう、君のことは忘れない」

その眼には、涙が流れた。

入神の演技も盗んでしまったようだった。


泣きたいのは、北畠だったろうが、脳に針を撃ち込まれて覚醒することはない。

永遠に、俺(地球産勇者)の精子を供給するシステムへと昇華したのである。


その日は新月の夜だった。

ブ~ン、ブ~ンという重低音の何かが迫ってくる。

場所は、俺たちが居住する高級マンションの屋上である。


月から発進した亜空間潜航型強襲揚陸艦が彼らを迎えに来たのである。

直径10Kmにもおよぶ超大型艦、存在を隠すためか光はなく黒く見える。

本当は違うのかもしれないが。


光の柱が屋上に運ばれた北畠のカプセルとその周辺を照らす。

彼らは、上昇していき、艦に吸い込まれる。

そして、大型艦は虹色に発光したかと思うと急速に上昇していって消えた。

その姿は、所謂葉巻型に見えなくもなかった。

但し、かなり巨大だったが。


「ところでアンナさん、地球軍の司令官ってなにするの?」

「今まで通りで結構かと思います」

「そんなんでいいの、侵略戦争を開始するのかと思ったけど」

「いいえ、他の高度文明が現れた場合に、マスターシャドウの存在を示すことで、この地球が我々文明の植民地であることを証明することができるのです」

「へえ~」


所謂、アメリカ大陸発見と同じ理論なのであろう。

原住民は住んでいたが、発見したのは、白人とか無理無体な論理だが、ここにもそれが適用されるようだ。俺たちは、低文明の原住民なのだ。住んでいても発見していない愚か者だということだ。まあ、反対しても、インカやアステカのように皆殺しになるのかもしれない。


まあ、逆らってもとても勝てそうな相手でもないので、原住民として楽しませてもらうとするか。


・・・・・・


南海の楽園。

コバルトブルーの海、白い砂浜。

湿気の少ない風が心地よい木陰。


日本からはるかに離れた南半球の島に俺たちはいた。

日本の事は、上杉らに一任している。


ユウコとその双子。クララと二人の子供。

そして、2回目に行った時にできたメイドとその子。

そして、アンナさんと量産型アンナさんの一個小隊。


最高級スイートを借り上げて、宿泊している。

アンナ1個小隊は、全員が顔を変更している。

彼女らは、護衛兼監視の任務を帯びている。

地球軍指令官を守っているのである。

それと、司令官の逃亡を防ぐことが目的である。


「パパ、冒険譚お話して」

俺の子供が駆けてくる。

「また、あのお話なの」

「うん、僕勇者になりたいんだ」

クララや異世界メイドの子供は勇者が大好きだ。

しかし、俺はそれはやめた方が良いと、隣を見る。

美しい顔の女性が立っている。

アンナさんである。


ユウコの子供たちは、人間らしい姿だが、あまりしゃべることはない。

だが、とにかく頭から突っ込んできてじゃれついてくる。

可愛いかと聞かれれば、とても可愛い。まるで動物の子供のように。

すぐに、人の頭の上に上ってくる。



俺は、適当に脚色された物語を始める。


「・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

こうして、勇者ノースは、星になりました」


話の結びでは、勇者ノースは星に成るのだった。

流星になったノース、北畠という勇者を俺は知っている。


「かっこいい!」

「かっこいいね」

子供たちは無邪気な笑顔を向けてくれる。

「そうだね、父さんは星になるのは勘弁してほしいかも」

下手なことを言えば、すぐにでも、母艦が現れる予感がしていたからである。


あの日も大騒ぎになった。

謎の飛行物体が都内の上空に出現したという。


都内の天文好きが発見したらしい。

なんでも、10㎞はある物体だと、馬鹿な話を言い出す始末だ。

10Kmもするものが、宙に浮くはずもない、そんなことが有れば、その下にいる者もただではすむまい。

地球には、引力も重力もあるのだぞ。


だが、そんな馬鹿話もやっと落ち着き始めたころに、又も馬鹿話が始まる。

月の裏側に、何か大きな物体が入ったのが見えたのだという。

しかも複数だったとかなんとか。

馬鹿も大概にしろと言いたい。

そんな物が存在するはずがないではないか!


直ちに情報操作をしなければならない、けっしてそんなものは存在してはならないのだと!


「マスターシャドウ、方面軍総監が到着した模様です、直ちに出頭せよとの指令です、地球総督に任じていただけるとのことです」とアンナさん。

司令官と総督の違いがよくわからないが、きっと総督の方が権威があるのだろう。


「は!有難き幸せ」俺は、入神の演技で素晴らしい笑顔を作る。

あの生物たちと会うのだと思うと不安である。しかし、ここで不安を見せるわけにはいかない。


アンナさんの瞳は虚無を映していた。


煌めく陽光が海に反射していた。


《完》




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異世界帰りの『自称大魔導師』は惰眠を貪りたい。 九十九@月光の提督・連載中 @tsukumotakano

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