第90話 内閣総理大臣
090 内閣総理大臣
「右の結果、上杉 隆景君を、衆議院規則第18条第2項により、本院において内閣総理大臣に指名することに決まりました」衆議院議長の声にパラパラと拍手が起こる。
国会の衆議院議員による総理指名選挙で上杉隆景が総理大臣に選出される。
本日中に組閣され、天皇による認証式を行われることになる。
元SOG隊員上杉は、かつての永田事変解決の英雄として、陸将まで出世し、国会に打って出たのである。
「今の危険な状態の日本を目覚めさせる必要が絶対にあるのです!」
事変自体は、陸上自衛隊の一部が起こしたことになっているのだが、その裏には、共産国のスパイが暗躍したのではないかというまことしやかな噂が流されていた。
これらの噂は決して消えない。
操作されているからである。
そして、上杉は民自党の推薦候補(現役民自党議員を退けて)になる。
さぞや暗闘が繰り広げられたのではなかろうか。
だが、実際には起こらなかった。
「勿論、譲るよね」
「はい」
この会話で終わったのである。
影野が直接相手を説得したのである。
片方の目が金色に光っていたことはここだけの秘密である。
選挙資金は、大量にあった。
上杉自身もそうだが、今もなお、システム維持費として、月に10億円がスイスの某銀行に振り込まれている。世界の平和を維持するために、日本政府が、思いやり予算として、内閣機密費で支払っている。世界の衛星が使用不可能になる事態だけは回避しなければならないのだ。すべてが日本政府の所為にされることは火を見るよりも明らかだった。
その金が上杉一派に流されている。今や、その他にも国防族として、武田、毛利、浅井も議員として活動している。
日本の政治は、影野により大きな影響を被ることになる。
これで、日本の治安組織が影野を襲うことは完全に不可能になったのである。
この状態こそ民主主義の危機であるはずだが、誰もその事を語ることはない。
・・・・・・・
そして、資金提供者で黒幕たるあの男はどうしているのか?
時間はかかったが、ある程度の事態は決着した。
完全勝利である。
勇者は殲滅され、日本国も屈した。
世界超大国も屈した形になる。
そもそも、自衛隊全体で戦っても、勝てるような人間かどうかは別である。
世界の空が支配されてしまってはどうすることもできない。
衛星とはそれだけ生活にとって欠かせないものになっているからだ。
もし仮に、支配されていない衛星を打ち上げれば、たちまち、衛星破壊衛星が攻撃を仕掛けてくる。故に、衛星打ち上げ、許可を取らねばならなくなっていた。
勿論、表面上はそのようなことは知らされていない。
だが、衛星軌道はすでに完全に掌握されてしまっているのだ。
男が住まう高級マンションの一室で、それは始まる。
「これで、心おきなく出発できますね」それが、アンナだったか、アイナだったかはわからない。
今や、彼女らは、10数体にまで繁殖している。
確実にロールアウトしてくるのである。いわゆる量産型アンナさんである。
電力と栄養素さえあれば、システムが自動で製造するのであるから、当然である。
「出発?」
その言葉は、祖師の伝説を思い起こさせる。
そう、彼の祖師は星になったという伝承が残されている。
「はて、どうしたものか」
何とか焦りを見せないように言葉を選ぶ男。
自分は、得た金で、南国スローライフを楽しむつもりであった。
祖師伝承には、やることが見つからない場合は、真珠養殖をすべしというものが存在する。
そんな馬鹿なことはしたくはなかったが、ゆっくりと惰眠を貪りたいとは考えていた。
アンナ達が周囲を狭めてくる。
美人過ぎるために、手荒な真似もしたくない。
しかし、十数人も同じ顔に囲まれると、恐怖を感じざるを得ない。
彼女たちの目的は、惑星の植民である。
そして、その途中でより強い個体を手に入れることである。
今ここで戦えば、さすがに影野が勝つ。
彼は、元勇者で異世界渡りにより、強力になった。
彼女らは、武芸百般を会得しているといっても、個体としては彼に敵うことはない。
通常の高性能な戦闘単位、つまり特殊部隊の兵士並みの強さしかもっていない。
「ところで、実験体はどうなっている。」
「はい、生きています」
実験体とは、何か?
答えは、北畠である。
「遺伝子操作はどうなっている」
「順調です、ご主人様の遺伝子に組み替えられています」
「それでも、俺が行かないと駄目なの?」
「・・・・・・・・」アンナさんの眼がうつろになる。
これは、母艦と交信しているのである。
「できればお願いします」
笑顔が怖い。
「ここで、一つ提案があるのだが」
「何でしょう?」
「勇者の細胞を確保しているんだが」
それは、勇者永田が爆散した時にたまたま手に入れた肉片である。
それを、試験管で培養した結果、細胞が増え始めるという奇跡的な生命力を発揮したのである。恐るべきは勇者。これで、勇者量産化計画は実施できるはず。
「御主人さまの細胞でも同じような傾向が見られますが」
影野は、土下座スタイルになった。
「どうか、お願いします。地球にいさせてください。まだ子供の世話も見ないといけませんので、よろしくお願いします。死んだら死体をもって行って下されば結構なんで」
熊との子供(何と人間の姿をしていた、双子)と異世界に二人存在している。
ゆくゆくは、地球に呼び寄せるつもりだった。
「・・・・・・・」うつろな眼が此方を見下ろしている。
そして、眼に意思が戻ってくる。
「わかりました、ご主人様の御意向通りにさせていただきます。死体を確保するためおよび任務完遂の為に、アンナ型を100体のこしておきます」と量産型アンナは言った。
「できれば、顔は変えた方がよいのではと愚考いたします」
流石に、芸能人そのままの顔で大量に出現するとまずいのではないか。
「わかりました、顔モデルの変更を行います」
「ありがとうございます」
平身低頭して何とか星になることを逃れた影野だった。
自分に優しく他人に厳しい人間だったが、プライドをかなぐりすてて、ここぞとばかりにお願いして事なきを得たのである。
下手を打てば、アブタクトされるところであった。
しかも、自分を助けに来てくれる人間はいないに違いなかった。
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