第89話 ボギー
089 ボギー
DDG277イージス巡洋艦『愛宕』。
CIC内では、人々が様々な機器を見張っている。
それは、軍事衛星の挙動である。
米軍の監視能力をも借りた監視網。
米国製のイージス技術を使った艦ならではの事ではある。
その軍事衛星は、日本国の首相官邸をこともあろうに光学兵器により攻撃した。
衛星レーザー砲である。
かつて、米ソ冷戦時代に、軍事衛星は多数打ち上げられたが、今やそのほとんどは、運用を停止していた。
その衛星の一つであるらしい。
何故今になって急遽復活したのか、しかも、悪いことに、それは光学レーザー砲を積載していたのである。
ボギー01と名付けられた廃棄衛星は、それ以来、世界の脅威として監視されることになる。
米国にもそのことは、共有されていた。
そもそも、米軍基地から武器を盗まれた被害者でもある。
大半が返還されていたが、明らかに少ないものがあった。
MK84爆弾と拳銃、ライフル、その銃弾などである。その中には、日本側にも教えることができないミサイルなどもあった。
拳銃とライフルくらいなら何とでもできるが、Mk84爆弾はとんでもない威力である。
犯人の永田がもっているはずがないことは、日本政府も米国も承知している。
都心で爆発すれば、一体何人の死者が出ることだろう。
直径30mのクレーターを作る威力があるのだ。
そして、その一味が今、衛星を駆動させているという。
どうやって動かしているというのか、実際に宇宙空間で衛星を修理しなければ動かすことなどできないはずである。(実質ほぼ不可能)
「発射カウントダウン」
今まさに、衛星迎撃実験が始まる。
太平洋上のイージス艦、VLSの蓋が開く。
「発射!」
「発射!」
周囲を猛煙が包み、SM3ミサイルが火を噴きながら上空へと飛翔する。
超高高度であるため、視認できない。
監視画面上で、弾頭がさく裂し、それがボギー01を巻き込む。
「命中!」
「ウォ~~~~」CICに歓声が上がる。
日本を危機に陥れていた衛星を迎撃し破壊したのである。
その情報はすぐに首相官邸にも届けられる。
「よし、これで、もう一度奴を逮捕できる!」
大塚首相が、ガッツポーズを作る。
しかし、恐るべき電話が鳴る。
「首相、実験成功おめでとう。しかし、20億円もするミサイルを使うくらいなら、私に贈ってほしいものですがね」電話の向こうは皮肉な口調であった。
「これで、君の攻撃方法は無効になった」と大塚首相。
「意味が今一つわからないのですが」
「これで君の攻撃方法はなくなったといっているのだ」
「ああ、そういうことですね」
「そうだ」
「首相、重大な勘違いをしていますよ。残念ながら、宇宙空間には、無数に衛星が飛んでいるのですが、御存じですか?」
「何を言っている」
「やるなら、全て撃ち落とさなければなりませんよと申し上げているのです」
「なんだと!」
「それはそうでしょう、廃棄衛星を修理して使ったのは、ゴミの再利用のためですよ、まだまだあるでしょう?それにそちらがそのような対抗手段とって、敵対的に行動するなら、こちらも、本気を出さざるを得ないでしょう?」
「今後一週間の間、全ての衛星からの電波を停止します」
「何を馬鹿なことを、全ての衛星だと」
「私もどうなるか想像もつきませんが・・・まあ、攻撃されるよりましでしょう?因みに各国のクレームはすべて日本で引き受けてくださいね。一日あたり100億円の送金で日数を短縮させてもらいますよ。いわゆるスイス銀行に口座がありますので、振り込みをお願いします。
そちらが、連絡を取りたいと考えているようなら、こちらから電話します。
大慌てで泣きわめいてくれたら、こちらも連絡を取りたいと思うかもしれません。テレビで土下座とかすれば、こちらもわかります。首相の緊急談話とかの形なら、わかると思います。じゃあ」プツリと電話が切れる。
それから、人類は、『
通信の途絶、GPSの停止。これだけで世界は簡単に麻痺してしまったのである。
船が止まり、飛行機が止まる、戦争すら止まった。
有線通信は生きていたが、それに集中することによりその部分がオーバーフローを興す。
世界中で打ち上げられていた衛星すべてが支配下に置かれていたのである。
世界各国が、日本政府に怒りの電話をかけ続けることになる。
中でも合衆国の怒りは尋常ではなかった。
経済的損失が爆発的に増加しているからだった。
中でも、人々の不安が高まると現金の需要が高まる。
買い物をするには現金が必要なのだ。
データ逼迫がカード決済を圧迫し、現金のみでしか買い物ができなくなる。
そうなると、銀行に人が押し寄せる。
そうすると、今度は銀行の信用不安が起こる。
それでなくても、近年は、金融不安をもっていたのである。
たちまち、銀行の取り付け騒ぎが発生してしまったのだ。
たった2日で日本政府は降伏した。
500億円が振り込まれる。
その金は、直ちに、ロンダリングを開始される。
次々と種類を変え、国を変え渡り歩く。追跡する部隊のコンピュータすらハッキングされているのに、追跡することは不可能であると結論されるざるを得なかった。
世界中の衛星からハッキングプログラムを駆除するには、天文学的な金額を要することが明らかになる。しかも、新しい攻撃がない場合にはという条件付きである。
どのようにしても、謎のハッカーは、穴を見つけて侵入してくるという。
ここに、世界のシステムはついに降伏したのである。
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