第16話小望月 満ちゆく想い
今日の月は限りなく満月に近い。
もう目を凝らさないと欠けていることすらわからないほどに。
彼女の煌めきが消えてしまうまで、もうほんの少しの猶予もない。
「と~お~や~く~ん!なにぼーとしてるの?」
それでも彼女の煌めきが霞むことは無かった。
「ううん。ごめん。考え事してた」
「考え事?」
「うん。考え事」
僕は彼女の目に映る月を見つめた。
雲にさえぎられることもなく夜の街に光を落とし続けるその月と、僕に光を与え続ける彼女の瞳はなんてきれいなんだろうか。
僕の目にはそれしか映らなかった。
「何考えてたの?こんな夜に黄昏れるなんて青春みたいなイベントを独り占めしないでよ。私にも教えて!」
彼女は唇を尖らせて僕に迫ってくる。別にこの感情を独り占めしようなんか思ってない。
むしろ僕以外の誰かがいないと、この感情は成立しない。
今、僕がこの感情を抱いてるのは君のせい。そう言ってしまいたい気もするし、それを言うのは恥ずかしくもあった。
「ねぇ~教えてよ~。青春イベントを私にも味合わせてよ~」
彼女はピョンピョンと飛び跳ねて僕にお願いをする。
無邪気に跳ねる君はまるで駄々をこねる子供のようだ。
僕の顔からは自然と笑みが零れだす。それを見た彼女は頬を膨らませる。
「ねーえーずるいよー。冬夜君だけ青春イベント満喫しないでよ」
彼女にそう言われても上手い返しが思い浮かばなかった僕は素直な気持ちを彼女に返した。
「ごめんって。でも陽菜ちゃんも好きな人が出来れば分かるかもしれないね」
僕の言葉に彼女は頬を膨らませるのをやめてにやにやとした顔に変わっていく。
「ってことは冬夜君いま好きな人のこと考えてたね。それってこの前言ってた子のこと?」
僕は黙って彼女をみる。それを肯定の意味として受け取った彼女は僕を質問攻めにする。
「この前は気になる子って言ってたのに今は好きな子に変わったんだ!何があったの?何があったの?」
グイっとあの日と同じように僕に詰め寄る。
少しの文脈の変化でそれを読み取ってしまう彼女はすごいなと感心しながらも、僕はあの日と違って一歩も下がらずに答える。それが君への気持ちだから。
「その子のことをよく知れたからかな。初めは太陽みたいな子だなって思ってたんだ。でも少し違った。もちろん明るくて笑顔もかわいい子だったんだけど、それだけじゃない。何て言うかそれとは対極にある月みたいな子だなとも思ったんだ」
「太陽と月?真反対だね」
「そう。太陽と月。その子はどっちの光も持っているような気がしたんだ。太陽みたいに明るくも照らすし、月みたいに優しくも照らす」
「なんかすごい子だね」
「うん。すごい子なんだ。僕に恋を教えてくれたすごい子」
それをほんとうに伝えてしまえば、君はどんな顔をするのだろうか。
僕が恋をしているのが君だと言ったら、君は恋に落ちてくれるだろうか。
好きという二文字に込めた想いは君に届くのだろうか。
好きという二文字に込めた想いを君は受け取ってくれるだろうか。
僕の中にいろんな感情がごちゃ混ぜになっていく。
「冬夜君はその子のことが本当に好きなんだね。なんか優しい顔してるよ」
彼女は少しだけ目をうるませながら、寂しそうな笑顔を僕に見せた。
月の夜空に浮かぶ君(改訂版) 神木駿 @kamikishun05
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