化粧
西しまこ
第1話
わたしの朝は早い。
夜明け前、家族の誰よりも早く起きて、まずお化粧をする。
化粧水をつけて乳液をつける。ベースメイクには時間をかける。丁寧に塗り、それから染みを消してゆく。粉をはたく。
顔がどんどん明るくなってゆくのが分かる。
最近、目尻が下がってきたので、目尻が上がるようにアイラインを引く。ビューラーでまつ毛を上げて、マスカラをつける。今日は日常のメイクだから、つけまつげはしない。
慎重に眉毛をかき、顔が明るく見えるよう、まぶたにラメが入った粉をのせる。
チークを薄く入れ、リップクリームを塗ってから口紅を塗る。
鏡に映ったわたしは明るく前向きに見えた。
よし! 今日も一日、頑張ろう!
手早く掃除と洗濯を済ませ、朝食とお弁当を作る。
全て終わったところで、時計を見るとまだ三十分くらい時間があるのでわたしはコーヒーを淹れ、席に座った。コーヒーをゆっくり飲みながら、スマホのチェックをする。
この短い自由な時間のために、わたしは早起きをするのだ。
「おはよう」
夫が起きてきた。
「コーヒー、飲む?」「飲む」
夫のマグカップにコーヒーを入れて渡す。
「そろそろ、みんな起こさなきゃね」
「ああ、うん、起こしてくるよ」
「ありがと」
わたしはすぐに食べられるよう、朝食を並べる。朝はパンとベーコンエッグとサラダだ。朝のメニューは決まっている。
次男が起きてきて、続いて三男、最後に長男がほとんど眠りながら起きてきた。夜遅くまでゲームをしていたに違いない。「ゲームしてたでしょ!」という言葉をぐっと飲み込み、笑顔で「おはよう!」と言う。「早く席について。朝ごはんよ」
「俺、コーヒー飲む」「俺も」
高校生の長男と中学生の次男はコーヒーを飲む。三男はオレンジジュースだ。
みんなで食卓を囲んで、「いただきます」。
会話はそこまで多くはない。だけど、朝の始まりの食事を、家族全員でとることがとても大事だと思っている。
いずれ、食事を家族全員で囲むことはなくなるのだろう。
いっしょに住むこと自体なくなるのだろう。
子どもが大きくなるのはあっという間だ。
わたしの朝は早い。早く起きて、お化粧をして気合いを入れる。家の中を整え、食事を作る。大変だけど、でもこれはきっと幸福な大変さなのだ。
了
一話完結です。
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化粧 西しまこ @nishi-shima
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