二月と三月の会議 *森の会議篇
西しまこ
第1話
森の会議は毎月一日に行われる。
基本、全員参加だけど、冬の間冬眠するクマなんかは冬眠期間は会議はお休みする。
ボクはキツネ。この会議の司会者さ。
今日は二月の会議。
今日の議題は「いつになったら暖かくなるのか」である。
「はい、じゃあ、今日の議題は『いつになったら暖かくなるのか』です。意見のある人は手を挙げてください」
「それより、おで、食べ物がないことの方が問題なんだけど」とイノシシが最初から話の腰を折った。
「そうよ、あたいもお腹が空いて、人間の家の柿を採ったら、すごく追いかけられて怖かったの」とサルが体を震わせて言った。
「あたしも……お腹が空いて、人間の家に入ったら……出られなくなっちゃって」とハクビシンが消え入りそうな声で言った。
「ねえ、それでどうしたんだい?」とイタチ。
「うん、それでね、あったかかったし、こっそり屋根裏で生活していたの。家族と」
「へえ、いいじゃない、それ。ぼくもやってみよう」と今度はタヌキ。
「だめよ。だって、結局怖い人が来て、追い払われちゃったの。すっごく怖かった」
ハクビシンはぶるぶる震えていたが、タヌキはぶつぶつと「いや、うまくやれば……」と、何かつぶやいていた。
「あの、今日のお題は……」と言いかけたら、ウサギが「ちょっと! あたしの方を見ないで! 物欲しそうな目でっ。セクハラよっ」と叫んで泣いた。
会議はうやむやのうちに終わり、ボクはノートに「人間の家はあたたかくて食べ物がある」と書き留めた。
さて、三月の会議である。三月は微妙な時期で、もしかしてクマが起きてくるかもしれないのだ。だから、毎年三月の議題は「クマがいつ起きてくるか」である。
「はい、じゃあ、意見のあるひと!」ボクはぐるりとみんなの顔を見た。
「あのさー」とタヌキが意地悪そうな声で言った。「この話題、毎年出るけれど、意味なくない? だって、クマがいつ起きるかなんて、クマにしか分からないんだから」
「そうよねえ。ばっかみたいっ!」とウサギが吐き捨てるように言った。
「え、でも、議題はボクが決めたわけじゃなくて、みんなで年の初めに決めたんです」ボクが少し涙声になると、モモンガが小さい体ですっと飛んできて、ボクの頭の上に乗った。
「よしよし、キツネさん。泣かなくていいのよ」と、モモンガは小さい手でボクの涙をそっとふき取ると、「もう! いくらお腹が空いていても、意地悪はだめよ!」と言った。
「そうだ。イジメはだめだ!」野太い声がして、みんながびくっとすると、クマがいた。
「あ、クマさん……よ、ようこそ! 今日が森の会議なんです!」
「うーむ、暖かくてつい起きてしまったわい、はははは!」クマは豪快に笑って、
「会議はみんながどうしたら楽しく暮らせるか、というための話し合いで、雰囲気が悪くなるならやらない方がいいぞ!」と言った。
そんなわけで、四月からは森の仲良しお茶会となった。
了
一話完結です。
星で評価していただけると嬉しいです。
☆☆☆いままでのショートショートはこちら☆☆☆
https://kakuyomu.jp/users/nishi-shima/collections/16817330650143716000
二月と三月の会議 *森の会議篇 西しまこ @nishi-shima
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます