KAC20232 夜の図書館で、ぬいぐるみたちのお泊まり会

無月兄

第1話

 みなさんは、図書館で開催される、ぬいぐるみのお泊まり会って知っていますか?


 まず、子供たちがお気に入りのぬいぐるみを持って、図書館にやってきます。

 それから、図書館員による絵本の朗読がスタート。ぬいぐるみたちも、子どもたちと一緒にお話を聞いています。


 それが終わると、いよいよお泊まり会の開始です。持ち主である子供たちは、ぬいぐるみを図書館に置いて帰ります。そしてぬいぐるみたちは、図書館で一夜をすごすのです。


 子供たちに本に興味を持ってもらおうということではじまったこのイベント。もちろんぬいぐるみたちは、何もせずにただ図書館に置かれるというだけではありません。

 ここから、夜の図書館での冒険が始まるのです。






 ぬいぐるみたちは、布団をかけられ、みんなスヤスヤ眠ってます。

 と言いたいところですが、中にはそうでない子もいました。


「リョウコちゃん、ボクがいなくて大丈夫かな? 寂しいよって泣いてないかな?」


 ウサギのぬいぐるみ、ウサ太くんは、持ち主であるリョウコちゃんのことがとっても心配です。


「リョウコちゃんのためにも、お泊まりなんてせずに帰った方がいいんじゃないかな。リョウコちゃんに会いたいよ。一晩離れ離れなんてイヤだよ。あと、夜の図書館って暗くて怖い。オバケが出てきたらどうしよう。あっ、向こうで何か音がしたかも。やっぱり帰る! お家に帰る! リョ、リョウコちゃんのために帰るんだーっ! リョウコちゃ〜んお願いだから迎えに来てーっ!」


 おやおや。リョウコちゃんのことが心配なんて言いながら、本当に寂しいのはウサ太くんのようです。


 すると、隣で寝ていた黒ネコのぬいぐるみ、ココアちゃんが、それを聞いて目を覚ましました。


「ちょっと静かにしてよ。眠れないじゃない」

「ご、ごめんなさい」

「ご主人様と離れて寂しいのはわかるけど、そんなんじゃ帰った時に笑われるよ」

「ボ、ボクは寂しくないよ。ただ、リョウコちゃんが心配なだけで……」


 寂しくないアピールをするウサ太くん。

 するとそんな二人のやり取りを聞いて、他の子たちもどんどん目を覚ましました。


「なに? もう朝」

「違うよ、まだ夜だよ」

「すっかり目が覚めちゃった」


 自分のせいで、みんなが寝るのの邪魔をしちゃった。シュンとするウサ太くん。ですがそこで、誰かがこんな話をし始めました。


「なあ。せっかくだから、夜の図書館を探検しないか?」

「探検? 面白そう」

「やるやる。そうと決まれば電気をつけよう」


 電気のスイッチが押され、暗くなってた図書館が、パッと明るくなりました。

 暗くて怖いと思っていたウサ太くんも、これなら安心です。


「さあ、探検開始だ」


 他のぬいぐるみたちは、我先にと布団から抜け出していきます。


 ボクはどうしようかな?

 そう思っているウサ太くんに、ココアちゃんが言いました。


「せっかくだから、わたしたちも行かない? 夜の図書館なんてめったに来れないんだもん。帰ったらご主人様にたくさんお話するんだ」

「そしたら、リョウコちゃんも喜んでくれるかな?」

「うん。きっと喜ぶと思うよ」


 リョウコちゃんが喜ぶ。それを聞いて、ウサ太くんもやる気が出てきました。

 ココアちゃんの後をついていって、探検の始まりです。


 ふたりがまず向かったのは、絵本コーナー。さっき図書館の人から読んでもらった本以外にも、面白そうな本がたくさんあります。


「ボク、これ読みたい」

「わたしはこれ」


 ココアちゃんと一緒に気に入った本をとり、ワクワクしながらページをめくります。

 他にももっと読みたいな。しかしそこで困ったことが起きました。

 次に見つけた読みたい本があったのは、本棚の上の方。しかし小さなぬいぐるみの体では、そこまで手が届かないのです。

 どうしよう。


「お〜い君たち。届かないなら、ぼくの背中に乗るといいよ」


 そう言ってくれたのは、大きなゾウのぬいぐるみでした。


 うんしょ、うんしょ。ふたりはゾウさんの背中を登って、見事棚の上に手を伸ばしました。


「ゾウさん、ありがとう」

「どういたしまして。ぼくが読んだ本に、困った人がいたら助けてあげなさいって書いてあったんだ」


 そう言ってゾウさんが見せてくれたのは、ちょっぴり難しそうな本でした。

 ウサ太くんとココアちゃんには、少し難しそう。だけどそんなステキなことが書いてあるなら、いっぱい勉強して、いつか読んでみたいです。


 その頃、他のぬいぐるみたちも、思い思いに夜の図書館を楽しんでいました。

 本を読むだけじゃありません。カウンターでは、本を貸す時に使う、ピッピと音を出す機械を使って、貸し出しごっこをしています。


 図書館の奥では、ハンドルを回すと横に動く本棚、移動棚を見つけました。

 みんなでハンドルをぐるぐる回し、大きな大きな本棚を動かします。みんな大はしゃぎです。


 普段の図書館では、あんまり大きな声を出してはいけません。けど今は、ぬいぐるみたちの他には誰もいない、夜の図書館。少しくらいならいいですよね。


 そうしているうちに、夜もすっかりふけてきます。

 眠れないやと起きてきたぬいぐるみたちも、あっちでうとうと、こっちでうとうと。みんな本当に眠くなってきました。


「みんな、そろそろ寝ようか」

「そうだね」


 だけど寝る前に、みんなで選んだ絵本を一冊だけ読むことにしました。

 読むのは、元々この図書館に置いてあった、太っちょなトリのぬいぐるみ。小説投稿サイトのマスコットでもある、あのトリさんです。


「〜こうしてみんなは、幸せにくらしましたとさ。めでたしめでたし。あれ、もうみんな寝ちゃったかな」


 絵本を読み終わったころには、みんなすっかり夢の中でした。ウサ太くんもココアちゃんも、ぐっすり眠ってます。


 夢の中でウサ太くんは、むかえにくるリョウコちゃんを待っていました。だけどそれは、寂しいからではありません。どんな本を読んで、どんな冒険をして、それがどれだけ楽しかったか、早く話してあげたいからです。


 他のぬいぐるみたちも、この楽しい思い出を、ご主人様に話すのを待っています。


 こんな素敵なことが詰まった、図書館でのお泊まり会。

 もしもあなたの街の図書館で開催されたら、大事なぬいぐるみを参加させてみてはいかがですか?


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KAC20232 夜の図書館で、ぬいぐるみたちのお泊まり会 無月兄 @tukuyomimutuki

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