【青蛙祭】プロローグ-②:台風の夜とおさかなトンネル
校長と名乗る謎の女の子に手を引かれ、校舎に足を踏み入れると……そこには作りかけの看板や、半端に膨らんだバルーン飾り、仮縫いのまま山積みになったドレス、照明機材などが、雑然と置かれていた。
「なんか、散らかってるね……文化祭の前だから?」
「あぁ、みんなが好き勝手に動いているせいで、どこに何があるのかわたしも一切把握していないのだ!」
ドヤ顔で断言する校長に不安を感じていると、女子生徒たちがバタバタとやってきた。
「校長! 演説用のマイクのコードが見当たらないのですが!」
「こっちは紅白幕がないんです!」
「む? わたしは知らないぞ」
「私はって、他に誰が知ってるんですか? このままじゃ前夜祭に間に合いませんよ!」
「そんなことを言われても、それはわたしではなく実行委員の仕事なのだ!」
「その実行委員が全員辞めちゃったのは誰のせいです?」
「はて、誰なのだ? そんな困ったちゃんは」
「校長、あなたです! 校長が全く頼りにならないせいで」
「あの時、校長は言いましたよね? 新しい実行委員は自分が責任を持って見つけるって」
女生徒たちに詰め寄られた校長は、目に涙を浮かべながらパクパクと口を開いていたが……。
「こ、この子が新しい実行委員長なのだっ!」
逃げるように私の背後に回り込み、校長は私の背中をぎゅっと前に押し出した。
「その制服……もしかして転校生ですか?」
「転校生にいきなりそんな大役って大丈夫なんですか?」
女生徒たちの視線が私に突き刺さる。そりゃそうだ。唐突すぎて私だって意味がわからない。
「校長のわたしが任命するのだから問題なーい! 転校生ちゃん、今日から君を青蛙祭実行委員長に任命するのだ!」
人差し指と同時に、合羽の裾からぴょこんと飛び出た尻尾の先が、ビシッと私の方を指す。
「そんな、いきなり言われても……。ていうか何で私が!?」
「わたしがそう決めたからには、そうなのだ! 皆、もう心配することなど何もないぞ!」
女生徒たちに胸を張ってそう告げつつ、校長はそっと私に耳打ちをしてきた。
「お願いだ! 転校生ちゃんが引き受けてくれないと、わたしの校長としての威厳が……」
威厳なんて一切感じられないまん丸な瞳をウルウルさせながら、校長はすがるように私を見つめてくる。
「それに実行委員長という立場は、トンネルを探すのにもってこいであろう?」
「それ、関係ある?」
「よく考えてみるのだ。このごちゃごちゃした校内を、転校生ちゃんが一人で探し回るなんて大変であろう、それに何より怪しいことこの上ない!」
「確かにそうだけど……」
「実行委員長になれば、どこを歩いても不審がる者はいなくなるのだ。どうだ? 我ながら素晴らしいこじつけであろう?」
墓穴を掘っていることにも気づかず、ドヤ顔をしている校長を見ながら私は考える。
苦し紛れの提案にしては、肯ける点もある。それに、このまま校長を置いていくのも心苦しいし……。
「わかりました……私にできることなら」
「本当か! さすがは転校生ちゃん! わたしの目に狂いはなかったのだ!」
喜んで飛び跳ねた拍子に、合羽の裾からまた尻尾がぴょこんとはみ出した。
結局この尻尾は何なんだろう? ていうか校長って何者なの? あの屋上の水槽は? そもそもあのトンネルは何だったの!? わからないことだらけではあるけれど……こうして私は、元の世界に帰るトンネルを探すため、「青蛙祭実行委員会」の委員長として奮闘していくことになったのだった。
≪続く≫
青蛙祭実行委員会よりお知らせです。 室岡ヨシミコ/電撃G'sマガジン @gs_magazine
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