第74話 いざ、京都へ
京都行きの新幹線にて。
後ろの座席を回転させて、俺たち六人は向かい合って座っていた。
「楽しみだなー、京都」
楽々浦は軽く伸びをして、横の三宮さんの肩にもたれかかる。
「にしても、眠そうだね」
「しょうがないだろう? 楽しみすぎて眠れなかったんだもん」
「そうそう、俺も楽しみすぎて昨日眠れなかったぜ」
楽々浦に便乗して、かけるくんものびをした。
「凪くん、私も少し眠いから、肩貸してもらえませんか?」
「うん、いいよ」
そっと頭を俺の肩に預ける真白。
「っておい、みんな寝てんじゃんッ!!」
置いてけぼりになった佐藤は慌ててツッコミを入れる。
本来なら俺の役割だったツッコミも、今は眠気のせいでできなかった。
一年前は友達とこうやって修学旅行を楽しめるなんて思ってもなかったものだから、俺は少し感慨深い気持ちになった。
ただ、この修学旅行にはもう一つの目的がある。
それは、かけるくんが楽々浦に告る機会を作ること。
楽々浦の気持ちは分からないが、俺はかけるくんを応援すると決めたんだ。
たとえ、最悪の結果になろうとも……いや、こう考えるのは少し早いかも。
いつもかけるくんと一緒に行動している楽々浦なら、かけるくんを悪く思ってはいないはず。
たとえ、その告白は失敗に終わるとしても、楽々浦とかけるくんの関係性、そして俺たちの関係性は壊れない。
なぜかそう確信してしまう。
「うわ〜、綺麗」
窓側の席に座っている三宮さんは、外の景色を眺めながら子供のようにはしゃぐ。
「どれどれ? わー、綺麗」
三宮さんにつられて、寝ているはずの楽々浦と真白も窓の外のほうに視線を向ける。
「凪くん、見てみて富士山です」
真白に促されるまま、窓の外を見ると、富士山が鎮座していた。
瑠璃色の麓に、空色の山頂。
写真で見るより実物の方が壮観だった。
「凪くん、知っていましたか? 富士山って活火山なんですよ」
「怒ってる時の真白みたいだな」
「私いつ怒りましたか!?」
「今現在プンスカしてるよ?」
「もう、凪くんのばか!」
頬を膨らませる真白。
栗色の髪は体に沿って揺れていた。
「あのー」
「うん?」
「二人の世界に入ってる時に悪いけど、トランプやらない?」
楽々浦がカバンからトランプを取り出して、
「せっかくの修学旅行だし、な?」
と、俺らに配り始めた。
「これからは自由行動になります。くれぐれもハメを外しすぎないようにね」
引率の先生が自由行動の開始を宣言すると、生徒たちはざわつき始めた。
どこに行こうとか何を買おうとか、そういう声が飛び交っていた。
「それじゃ、行きましょうか、凪くん」
班での行動以外、つまり自由行動の時間は俺は真白と約束して二人で回ることにしている。
真白の手を引いて、俺らはバス停に向かった。
それから、おおよそ30分ほどして、俺らは三年坂に着いた。
「店がいっぱいですね」
清水寺めがけて、坂を登っていくと真白はキョロキョロしだした。
「なにか買って食べる?」
「うん、抹茶アイスがいい!」
「真白はアイスが好きだな」
「ふふっ、凪くんと同じくらい大好きですよ」
「俺は苦くないぞ!!」
「でも、わりとクール、ですよね?」
アイスだけに、か。
真白がそんな冗談を言うと思わなかったから、思わず笑いが漏れてしまう。
「なんで笑うのですか?」
「真白らしいなと思って」
「私らしいってどういうことですか?」
「可愛らしいということだ」
かぁ、と真白の顔は緋色に染まっていく。
「急に褒めるのはずるいです……」
「悪い。もう褒めないから許してくれ」
「もー、もっと褒めてくださいよ!」
「どっちなんだよ」
ふふっ、とどちらからともなく俺らは見つめ合って笑っていた。
途中、店に寄り、俺たちは抹茶アイスを買った。
それを掬いながら、俺は話の続きをする。
「なっ、真白」
「なにぃ? 凪くん」
「実はさ、かけるくんに相談を持ちかけられてね」
「倉木くん?」
「うん、かけるくんって楽々浦のことが好きだったんだ」
「なんとなく、気づいてました」
そういうと、真白は考え込む。
「やはり、真白も気づいてたか」
「はい、楽々浦さんが倒れたとき、尋常じゃないくらい慌ててたから」
「うん、俺もそれを見て薄々勘づいてたけど、本人がそれを言ってくれるまでなにも聞かないことにした」
「凪くんらしいね」
俺の方を向いて、真白は嬉しそうに笑った。
「そこで、かけるくんはこの修学旅行中に楽々浦に告るつもりだ」
「私の協力が必要、ということですね」
さすがは真白。
俺の言わんとしていることを的確に察してくれる。
もちろん、かけるくんの話を真白に話したのは、女性側の協力も必要だと考えたからだ。
その分、真白は適任者だと思った。
楽々浦と三宮さんからの信頼があって、かつ俺の意思を汲んでくれる唯一の存在。
「ああ、決戦は三日目。伏見稲荷大社に班で行く時にしようと思う」
「うん」
「俺なりに考えた最高のシチュエーションだ」
「凪くんってロマンチストですね」
悪魔のようなにんまりとした笑顔を浮かべる真白。
俺をロマンチストと呼ぶあたり、真白も同じことを考えていたのだろう。
ほんと、俺の彼女は可愛い。
電車の中で肩を貸したら、『人形姫』と添い寝するようになりました 〜いつも無表情の学校一の美少女は俺だけにひまわりのような笑顔を向けてくる〜 エリザベス @asiria
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