第3章

『みんなの修学旅行』編

第73話 班決め

 夏休みのとある日のことだった。


 真白に頼まれて彼女の家に荷物を取りに行く時の出来事だった。

 真白が言うには、親に連絡してあるとのことだから、俺は深く考えずに今まで添い寝していたあの家に向かった。


 真白のものをカバンに入れて、彼女の家を後にすると、誰かの視線を感じて周りを見渡している時にふと声をかけられた。

 

「こんにちは」


 綺麗な女の人だった。

 スーツ姿なので、仕事ができるキャリアウーマンという印象だった。


「こんにちは」


 挨拶されたからには、無視するのはよくないと思ったから、オウム返しのように返事をする。


「あの子はいま幸せにやっているのだろうか……」

 

 女の人は独り言のように呟いて、それから去ろうとしたが、そのままにするのが忍びなくて思わず口を開く。


「その子が誰だか知りませんが、貴女が想っているのなら、想われてるその子も幸せなんじゃありませんか?」


 俺から返事が聞けるとは思っていないようで、女の人は少し驚いたが、すぐにのような笑顔を浮かべた。


「ありがとうね」




「いよいよ修学旅行だね!」


 夏休みが明け、二学期にもなると、『コ』の字の校舎に昼休みでご飯を食べる人が増えた。

 そういう俺も、今はこうしてみんなを伴って校舎の芝生の上に横たわって真白を見上げていた。


 楽々浦にかけるくん、それと三宮さんに佐藤も弁当箱や購買で買ったパンをシートの上に置いて、プチ遠足気分を味わっている。

 楽々浦は控えめにこそなったが、こと学校行事ともなると、やはり最初に話題に出すのは彼女で、それにはもう慣れていた。


「少尉、俺と同じ班にしないか?」

「いいよ」

「あれ、少尉がいつもになく素直だな」

「いつも素直だバカ」


 かけるくんも楽々浦に便乗して修学旅行の班について聞いてきたが、今の俺なら少々軽口を叩けるようになった。

 今までのやり取りも軽口じゃないかと言われたらそうと答えるしかないが、やはり「ばか」というのが俺の中では軽口の基準だったりする。


「じゃ、この六人で回ろうか」

「六人?」

「わたしもいるよ〜」

「三宮さんのことはカウントしてるよ」

「あらま〜」

「佐藤くん! お前も食ってないで存在をアピりなさいよ!」

「ぐふッ……!!」


 楽々浦の提案を俺が茶化すと、相変わらず佐藤がいじられる羽目になった。

 このグループにおいて、佐藤は徐々にマスコットの立ち位置を獲得しつつある。


「真白はどう思う?」

「私もいいと思いますよ」

「佐藤がいてもか?」

「…………」

「東雲、お前までそんなことを言うんじゃない!!」


 ついでに、俺も佐藤をいじってみたら、誰からともなく笑いが起こっていた。


「にしても、東雲くん、いつまで真白ちゃんの膝で寝てるつもり?」

「昨日あんまり眠れなかったからもう少し寝かせてよ」

「えっ!? なんだって!?」

「少尉、そんなカミングアウトはあかんて!」

「あら〜、真白ちゃんの顔赤くなってるわね〜」

「東雲、お前ってやつはよ……」

「あっ……そろそろ教室に戻らないと」


 我に返ってとんでもない誤解を与えてしまったと自覚して、俺は真白の膝から起き上がって帰り支度を始めた。


「こらこら、逃げんなって」

「これは逃げではない、戦略的撤退だ!!」


 真白の手を引いて、俺は足早に教室に戻って行った。




 放課後、かけるくんから一件のメッセージが届いた。


かける:

なっ、少尉、今から少し時間いい?


 かけるくんからこう改まってメッセージを送られてくるのは珍しいので、すぐ返信することにした。


東雲凪:

分かった。屋上でいい?


 返信してまもなく、かけるくんからOKを貰ったので、俺は真白に先に帰るように言って屋上へ向かった。

 屋上に着いた時、かけるくんはすでにいて俺を待っていた。


「告白なら受けないよ? 真白がいるから」

「違うし! そんなのじゃないし!」


 かけるくんらしくなく、少し焦ったところが可笑しかった。


「少尉、いや、東雲、お願いがあるんだけど」

「いいよ」

「無理とは承知で言うけど―――ってあれ、もうOKした?」

「友達のお願いだろう? いいよ」


 いつもになく畏まった雰囲気を纏っているかけるくん。

 そんな彼のお願いなんて聞かなくても引き受けるつもりでいた。


 俺は楽々浦とかけるくんにたくさん助けられてきたから、今度は俺が力になってあげたい。


「お前ってやつは……実はさ、俺、小夏のことが好きなんだ」

「薄々気づいてたよ」

「ほんとに!? そんなに分かりやすかったかな……」

「ううん、前に楽々浦が倒れた時、かけるくんすごい心配してたからそれで」


 俺の返事を聞いてかけるくんはほっとした。

 やはり、あの時に感じたかけるくんの楽々浦に対する想いは友達以上のそれだった。


「なら、話が早い……今度の修学旅行に、俺、小夏に告ろうと思うから、その手伝いをお願いしたい」

「分かった」

「お前ってほんとにいいやつなんだね」

「よせ、照れるから」


 具体的にかけるくんと楽々浦のために何が出来るのかは分からないけど、こうして頼んできているのだから俺なりに頑張るつもりだ。


 この時俺は知らなかった―――かけるくんと楽々浦の二人の物語は過去に遡って動き出す。


――――――――――――――――――――――

お待たせしました!


ぼちぼち連載を再開しようと思います。

というわけで第3章はかけるくんと楽々浦、そして真白の秘密について書いていこうと思います。


第3章が終わることには☆2000を超えたいな笑

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る