本番

 パーティー当日。イベントサークルらしく、学外の人もたくさん来ているようなので、あまり気負わずに参加することができた。


 俺と腕を組んで歩く優花が、一瞬ハンターのような鋭い視線を放つ。ターゲットを射程に収めたようだ。

 さり気なく俺もチラ見する。


 藤咲イケメン先輩、確かに綺麗な顔をしている。しかも、めっちゃおしゃれ。

 横の女性もあざと可愛い感じ。

 え? あの子と優花が親友だった? 嘘だろ。タイプが違い過ぎる。


 どう考えても、主人公ポジの女が目ざとくこちらを見つけて目を細めた。

 颯爽とモデル歩きでやって来る。


「あら、優花じゃないの。最近サークルに顔を出さないと思っていたら、血眼になって男性ハントしていたんだ。良かったじゃない。彼氏が見つかって」


 睨み合う二人。


「お似合いよ」


 そう言ってくすっと侮蔑の笑みを浮かべた女。


 俺じゃ力不足ってことは分っているよ……


 だが、優花は負けじと噛みついた。


「ええ。類は友を呼ぶって言葉を実感したわ」

「ふふふ、そう」

「浮気男には浮気女、誠実な男には誠実な女が引き寄せられるんだって」

「何が言いたいわけ?」

「別に。真実を言っただけ」


 一発触発な雰囲気。腕を引いてさり気なく二人を引き離した。


 でも、優花の言葉はなんか嬉しかったな。


「ごめん。ついかっとなっちゃって」

「ま、いいんじゃねえの。たださ、優花の笑顔を見せつけてやりたい奴はもう一人いるだろ」

「翔太……そうだね。ありがとう」


 花開く優花の笑顔に、俺はまたドスっと射抜かれる。


 そうだよ。これが優花の本当の魅力だよ。



 その時、男がついっと俺達の前に来た。件の藤咲イケメン先輩だった。


「あの、ちょっといいかな」


 見上げてきた優花に頷くと、彼に付いていく後ろ姿を見送る。

 

 良かったな。リベンジチャンス到来だ。


 胸がギリギリと痛むけれど、俺はこのためにここに来たんだからと我慢の一文字を刻む。少し離れたところで真剣な表情で語り合っている二人。


 見ているのはやっぱり辛いから、俺はそっと背を向けた。



「ただいま」

 ポンと肩を叩かれた。

「なんだよ。帰ってきたのかよ」

「あったり前でしょ」

「アイツ、謝ったか?」

「それよりも」


 嬉しそうな顔でニコニコしている。


「やり直そうだって。あたしの笑顔を見てぐっときたんだって。あんな顔もできるんだなって」

「俺とだとで済むからな。お前の一番かわいい笑顔が拝めるもんな」

「それだけじゃないけどね。翔太のお陰だね。ありがとう」


 なんだか体の力がふっと抜けてしまった。

 俺の役目は終わったらしい。


「元の鞘に戻るんだろ。おめでと。じゃ、俺帰るわ」

「はぁ? 何言ってんの?」


 一気に不機嫌な顔になる優花。


「んなわけないでしょ。ばっさりフリ返してやったわよ。あーすっきりした!」

「お、おお。そうか」


 なんか、ほっとしてニヤケそうだぞ。


「じゃ、帰ろっか」

「お、おう」


 俺の腕を捕まえると、ぐんぐんと出口へと歩き出した。


 

 帰りの電車の中でも、優花は俺の腕を離さなかった。もうカレカノのフリをする必要は無いのに、何故?

 その答えを知りたくて、でも怖くて。

 結局家の前まで来てしまった。

 

「アルバイト代……払わないとだね」


 小さな声で呟く優花。


「いらねえよ」

「え、でも」

「いらねえよ。そんなもん」


 なーにが、二時間で五千円の美味しいバイトだよ。

 実際はあれから毎日、何時間も突き合わされてたじゃないか。

 やれデートの練習だ、見つめ合う練習だ、夜おしゃべりの練習だって。

 拘束時間長すぎだろ。

 正確に時給換算したら、七十円くらいにしかならないぞ。

 

 おまけに心臓はおかしくなるは、寝不足になるわ。

 洋服に美容院に、オタク眼鏡の代わりのコンタクトまで自腹切らされて。

 完全な持ち出しだぜ。


 でもさ、この時間は俺にとってかけがえのない時間だった。


 最高に幸せな気持ちを貰えたんだ。だから……


「俺、お前のこと好きだ。だからもらえない。その代わり、本当のカレカノになりたい」


 意を決して頭を下げた。


「俺と付き合ってください」


「翔太ぁ~、嬉しい」


 あーあ、また泣き出したよ。

 お前の父親が今帰ってきたら、俺ボコボコにされっぞ。


 でも、嬉し涙で良かった———


 練習の成果か、自然と優花を抱き寄せることができた。

 

 もう、フリじゃくていいんだよな。


 優花が涙の残る瞳で見上げてくる。


「私、藤咲先輩と付き合っていたけど……バージンだからね」

 恥ずかしそうにそう言うと、俺の胸に顔を埋めて隠れた。


 なんだよ、そのカミングアウト!


 でも、俺は心の中で拍手喝采していた。

 


 イケメン先輩、ざまぁ!


      


        完


 


 


  


 

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役得 涼月 @piyotama

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