準備

 ちょっと一緒に出席するだけと言っても、色々話を合わせておく必要があるよな。

 そう思った瞬間、優花が打ち合わせをしたいから明日の夜会おうと言ってきた。

 もちろんOKしたよ。それからの二週間が地獄になるとも知らずに。


 互いの大学の中間くらいの位置で待ち合わせ。なるべく学生が少なそうな店を探していたら、ちょっとイイ感じの喫茶店を見つけた。静かだし話しやすそうだなと思ったら、優花も同じことを考えている様子。

 以心伝心で扉の中へ。


 二人っきりで茶店と言うのは初めてのことで、緊張しない仲とは言え微妙な空気が流れだす。それを断ち切るように、わざと事務的に当日のことや敵の概要を尋ねてみたんだが……失敗した。まだまだ立ち直っていない優花は、話し始めると興奮して泣き出してしまった。


 まるで俺が泣かしているみたいじゃないか。


 焦って横の席へ移動。背をさすってやるとウルウルした瞳でこちらを見上げてくる。


「翔太ぁ~、ありがとうね。本当にありがとう」


 か、かわいい!

 不意打ちに心臓がドキリとする。


 涙を拭いた優花。


「翔太のお陰で元気でた。ありがとう」


 今度はとびっきりの笑顔になった。


 う……かわいい。

 またもや心臓をやられた俺。


「泣いてすっきりしたらお腹すいちゃった。なんか頼もう。そうだ! お酒も飲もう」


 二人でピザとスパゲティとサングリアを頼む。


 自分から飲もうと言い出したくせに、お酒に弱い優花。目元がほんのり赤く潤んできた。


「ねえ、翔太。カレカノするんだったらさぁ、それっぽくしないと直ぐバレるよね。きっと」

「まあな」

「じゃあさ。今日からパーティーの日まで、カレカノしよう」

「……ごふっ」

「あ~ん、もう、大丈夫? ほら、拭いてあげる」


 俺の口元を笑いながら拭いてくれる。一瞬目が合って、三度目のジャブを決められた俺は頽れる寸前。

 でも、優花は違った。俺なら緊張しないと豪語した通り、なんのためらいも緊張もなく振舞っている。


 うん、そうだよな。

 分っていたよ。わかってはいたけれど……悲しい。

 

 はあ~


 心の中でこっそりため息をついた。


「あ、そうだ。明日待ち合わせして洋服買おう」

「へ?」

「だって、当日カッコいい翔太がいいんだもん」


 まあ、そうだよな。折角彼氏ができても、ダサ男じゃリベンジにならないもんな。

 今更顔はどうにもならないけど、せめて衣装くらいはな。


「わかった。んじゃ明日待ち合わせして買いに行こう」


 

 次の日は、二人でショッピングだ。


 あーでもない、こーでもないと何回も着替えさせられた。俺は着せ替え人形じゃねえっつうの。

 ようやくお気に入りの組み合わせを見つけたようで、「これにしよう」と上目遣い。


 はいはい。俺に買えと。圧かけんなよな。


 なぜか自腹で洋服を買わされた。まあ、これから何回も着られるんだからいいか。

 ちょっと悔しくなって言い返す。


「お前も買わないの? 新しい服の方がいいんじゃねえの」

「確かに。そうだよね。生まれ変わったあたしを見せなきゃ」


 女の子の買い物に付き合うって、生半可な覚悟じゃ足らなかったと大いに後悔したけれど、ファッションショーする彼女を見るのは眼福だったから、ま、いいや。


「最近の服は、そいつの好みだったのか?」


 ぶっきら棒にそう問えば、「……そうだね」と一言。

 

「ねえ、翔太。あんたが決めて」

「え?」

「あんたがいいって思った服にする」

「でも、俺じゃセンスが……」

「あたしが選んだ中から決めてくれるだけでいいから。ね、お願い」


 拝まれちゃ断れないぜ。


 俺は昨日今日の彼女の服装は好きじゃ無かった。背伸びした大人のような恰好で。

 俺が好きな優花は、もっと健康的な可愛らしさに溢れているんだよ。



 

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