役得
涼月
依頼
Lineの着信音に、夕食後のまどろみタイムがぶち壊された。
でも、相手を確認して心が弾んだこと。自分だけは誤魔化せないな。
幼馴染の
それに……彼氏ができたって聞いていたし。
一体、何の用だろうか?
『翔太! 頼みがあるの』
『いきなりなんだよ』
ひさしぶりとか、元気? とかの前置きも無く頼み事ときたもんだ。
『割りのいいアルバイトがあるんだけど、やるよね』
『なにその断定的な言い方。怪し過ぎる』
『怪しくないって。簡単だって』
優花のやつ。昔から俺にだけは上から目線で言いたい放題言ってきやがる。
まあ、ガキの頃からのつきあいだからな。俺の情けない姿もいっぱい知られているし。だから言いやすいんだろうなと、大目に見てやっている。
彼女も俺も主人公になれるようなタイプでは無いけれど、脇役その二、くらいの位置でそれなりに楽しく生きている。人間関係で物凄く困ったと言うことも無いけれど、華やかな舞台とも縁遠い。そんなごく平凡な人生を送ってきた。今までは。
『アルバイトって、何すんだよ』
『ほらね。翔太なら興味持ってくれると思った。二週間後のサークルのクリパで彼氏役をしてほしい』
『誰の?』
『あたしの』
『はぁ?』
なんだ、それ!
俺は思いっきり呆れ顔のスタンプを送ってやった。
『彼氏と喧嘩でもしたのかよ』
『もういない』
別れたってことか……
『親友と思っていた子に寝取られた!』
『悔しい!』
『見返してやりたい!』
『協力して!』
立て続けに送られてきた恨み節。
おっと、それはご愁傷様だな。
でも、心の奥底でチャンス到来とほくそ笑む自分がいた。
告白できるような雰囲気じゃ無いし。
そもそも告白する勇気も無いけれど。
あれ? 俺めちゃくちゃ情けないヤツだな。地味に落ち込んできたぞ。
そんな俺の気持ちには頓着無く、怒涛の文字列が届く。
サークルのイケメン先輩にダメ元で告白したら、いい感じの返事をもらって付き合いだしたのだが、華やかなステージ慣れしていない優花は、先輩と会うたびに緊張して失敗をやらかしていた。
でも、そんな姿も可愛いと優しくフォローしてくれていたので、いい人だなとの感激していたら、大学で仲良くなった友人に寝取られたと言うことらしい。
信じられないと泣いて責めた優花に、二人の理不尽な返事。
イケメン先輩からは
親友モドキからは、私の引き立て役のあんたに、
この一週間、泣いて泣いて不細工な顔になってさらに泣いて。
やっぱり許せないと、復讐を誓ったのだそうだ。
サークル主催のクリスマスパーティーまでに彼氏を作って、余裕のある自分を見せつけてやるんだと。
『浮気先輩からは、お前は直ぐきょどるから萎えるって言われた。酷いよね。そんなの仕方ないじゃん。目の前に綺麗な顔があったら緊張するに決まってるじゃん。好きだから上手く話せなくなっちゃうんだよ。それなのに酷すぎる』
そんな男とは別れて正解だ! と言ってやりたいけれど、優花はまだそいつのことが好きみたいだから悪口は
要するに、直ぐに彼氏を作るのは無理だけど、見返してやりたいから代役をたてようと思い立った。その時うってつけと思いついたのが俺ってこと。
絶対彼女がいないと決めつけているなんて、失礼な奴だな。
ま、その通りだけど。
カッコよくも無いし、好きでも無いから緊張しない。
つまり、きょどること無く余裕の態度を見せつけられるってことか。
はいはい。わかったよ。
俺のハートはぎったんぎったんにちぎれまくったけれど、幼馴染のピンチだからな。協力くらいはしてやるよ。
結局、俺はそのバイトを引き受けた。
パーティーで二時間ほど彼氏役を引き受けるだけで五千円もらえるっていう、優花曰く美味しいアルバイトをな。
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