イントロの舟 ⛵

上月くるを

イントロの舟 ⛵





 処方箋をいただくとき、薬剤師さんに必ず訊かれるのが「よく眠れていますか?」

 慌ててうなずくのは、パニック発作時の医師の処方が効き過ぎて眠剤が怖いから。


 それに、ひと晩よく眠ればつぎの晩はそう長いこと眠れないのは当然だし。(笑)

 だが、夜明けよりかなり早く目覚めてしまうと、じわじわと不安感が募って来る。


 で、気を紛らわせるため枕もとのラジオをつけてみるのだが、二時台はビンテージロックでうるさくて駄目(笑)、三時台は昭和歌謡コーナーなので安心して聴ける。




      🎞️




 今朝は作曲家・船村徹さん特集だった。

 冒頭で紹介されたのは女性歌手の二曲。



 ――島倉千代子さん『東京だョおっ母さん』

   美空ひばりさん『哀愁波止場』



 いずれも、復員兵の父がとりわけ大事にしていた古いラジオから流れて来ていた。

 テレビが普及すると、艶やかな振袖姿のお千代さんやひばりちゃんに憧れたっけ。


 どちらも天才的な歌い手だったけど、人としては必ずしも幸せではなかったよね。

 夜という魔の闇に浮かぶ小舟のようなベッドが感傷の波にたぷたぷゆすぶられる。




      🪟




 ふと気づけば、意識を逸らせるためのラジオが、逆に霊媒的役目を果たしていて、つぎの北島三郎さん『風雪ながれ旅』では、イントロから早くも(´;ω;`)ウゥゥ。


 命の重みを描く『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』の作者・松本零士さんの訃報もあり、昭和・平成・令和の時空を超えて漂うヨウコ丸はほとんど難破寸前で……。


 こういうときは身体を動かし声を発するに限る。潔く起床し、軽い筋トレのあと『糸』『Summer time』『Smile』『L-O-V-E』など歌いながらフロア掃除を開始。


 ちなみに『Smile』は、映画『独裁者』でヒットラーを徹底批判したチャールズ・チャップリンの作曲で、明るい希望のメッセージにいつも元気づけてもらっている。




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