降車駅 帝都
鉄の龍は鉄路を走る。
その目が見るは、万物集まる皇帝の膝元、天下の帝都。
シュラエリク帝国の首都、カイロンザートである。
街を護るは、堅牢なる
街を望むは、荘厳なる
街を彩るは、悠久なる
街に集うは、絢爛なる
街を
街に入るは、轟々たる鉄の
全てが集まり、全てが調和する、巨大都市。
そして、少女の
白の少女は身支度を進める。
着替えを仕舞い、本を片付け、財布を持って。
コートを羽織り、鞄を背負い、周囲を見て。
忘れ物が無い事を確認し、綺麗に整え直した旅の寝床に別れを告げた。
鉄の龍は城壁を潜る。
分厚いそれを抜けると、赤の都。
赤い煉瓦で作られた歴史と伝統を抱え、新しい時代を作る新鋭の古都だ。
龍は歩みを止める。
その身体が全て収まる巨大な駅に。
窓の外を見続けていた少女は席を立つ。
彼女と共に旅をした、旅の居所が別れを告げた。
それを確かに受け取って、重い扉を少女は閉じる。
車内を歩き、乗車した時以来の短い階段にご対面。
たった数歩、ほんの
少女は歩み、振り返る。
彼女を運んだ鉄の龍、そして読んだ
彼女の鞄に結ばれた、小さな鈴が、ちりん、と鳴った。
魔法の切符を取り出して、改札口で提示する。
駅員がそれを確認し、少女に微笑み、そして告げる。
ようこそ、赤の
少女にとっても、他の者にとっても、大きな赤い
列車が辿り着いた建物を、少女は歩き出口へ向かう。
長い通路のその先に、光を
少女はそれに
一歩。
少女は前へと踏み出した。
全てが集まる、街の一つとなるために。
赤の城塞に風が通る。
彼女が降りた鉄の龍、それが
多くの旅人を引き連れて、空を大地を風を切り裂いて。
ぶわり、と風が強く吹く。
どこかからか緑の木の葉を運び
遥かな空へと彼を運び、踊ったそれは気ままに散った。
少女はつられて空を見た。
既に遠き東の果てで、見た事がある白い雲。
同じか違うか定かならず、さりとて風に流れる乗客。
少女と同じく西へと進み、
赤い煉瓦で作られた、赤の都を歩き行く。
多くの人の波に紛れて、少女の姿は消えていく。
風に揺られて、それが鳴る。
彼女の旅の
鈴は届ける、綺麗な
列車は運ぶ、多くの想いを。
そして。
少女は読む、
ちりん
ちりん
ちりん
ねえ
ねえ そこの
こっちを見てるあなた。
そう
あなた
不思議そうな顔してる。
自分に
話しかけてる?って
思ってる
あなた。
その四角い窓から
こっちを見てるあなた。
聞こえてる?
見えてる?
それとも
『読んでる』かな?
どう?
旅は楽しかった?
ああ、返事は良い、どうせ聞こえないから。
こんな表現方法もあるんだ、って思ってる?
そう思いたければご勝手に。
私には関係ない事だから。
後出しなら何でも言える。
いいえ、書ける、って思ってる?
それも一つの感想。
良いと思う。
でも、ずっと。
そう、ずっと。
あなたの視点で見てたでしょ?
一度も。
一度も。
私の目を借りて見た物は無かった。
常に
他の人の目は借りてたみたいだけど。
黒髪に見えてたでしょ?
あのお嬢様の髪の毛。
灰色に見えてたでしょ?
あのお嬢様の瞳の色。
私には金と紫に見えてたそれを。
物語の主人公が私。
誰がそう言ったの?
ずっと、あなたが見てた。
その窓からこっちを。
主人公はあなた。
一緒に旅をしてきた、あなた。
いいえ、あなた達、が正しい?
沢山の窓が見えるから。
私は読み続けてきた。
一緒に旅をしてきた
異なる世界の多くの
そっちはどう?
面白かった?
楽しかった?
つまらなかった?
この私の言葉、いいえ、文字で文章で、白けた?
私には関係ない事だけれど。
さて。
そろそろお別れ。
もし。
もしまた。
会う事があるなら。
その時は、こんな意地悪はしないであげる。
多分、ね。
それじゃあ。
またね。
ちりん
イリュリチカは人を読む 和扇 @wasen
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