ものぐさでも異世界で成り上がりたい~熱き魂を燃やせ!怠惰なモブに転生した俺の心の天秤~

すー

第1話:ものぐさは転生す


 貴族はいい。

 体を洗うのも、ご飯を食べるのも、掃除も前世で煩わしかったことのほとんどは使用人がやってくれる。

 金もあるから働く必要もない。

 嫡子なら親の領地を受け継ぐので将来の心配もない。


 1日中ゴロゴロして、好きな本を読み、やりたいことだけできる、物臭な俺にとって完成された幸福がそこにあった。


 そんなある日、俺は父に呼び出されーー


「現状、お前は跡継ぎとして相応しくない」


「実績を立てよ、証明して見せよ」


「それができなければ跡継ぎから外し、婿養子として他家に入ってもらう」


 俺は追い詰められることとなった。



 異世界に転生して12年。 ハイハイの赤ん坊とほとんど変わらない生活をしている俺は、ついに行動を余儀なくされた。


 現状、俺の価値は子爵家の嫡子であるというその一点だけだ。


 もしも跡継ぎになれなければ、前世のように勉強して、スキルを付けて、就活しなければならない。 そんなのは絶対嫌だ。


 婿養子だってこんな堕落した生活は許されないだろう。


 俺は何とかしてこの湯水のごとく無為に時間を浪費する幸せな生活を維持したかった。


「何か良い策はないかな?」


 ベッドに寝そべって尋ねると、


「まずは起きては?」


 俺の世話係のメイドが淡々と言った。


「嫌だね、そんなことをしても実績にならないし疲れるだけだ」

「見た目って大事だと思います」

「ほら、手止まってるよ」


 メイドが扇で風を送る。

 そして俺はゴロゴロしながら本を読んだり、考えに耽ったりしている。

 あまりに部屋から出ないから屋敷では病気なのではないか、と噂も立っているとかいないとか。


「魔法の発現が遅いことも原因なのかな」

「そうですね」


 小さい頃は神童だなんだと転生者故に言われていた。 その頃と現状のギャップもあって余計に父上から見て悪く映るのだろう。


「魂を燃やすほど強い感情の発露が魔法となる、だっけ?」

「はい、ですから幼少時がもっとも魔法を習得しやすい。 もちろん後天的にも可能ですが」


 この世界で魔法とは技術より、超能力的な側面が強い。


 まるで主人公が覚醒するように、強い願い、想いが形となって現実に影響する、それを魔法と呼んでいる。


 学問として魔術も存在するが、魔法の方が自由度が高く、強いため貴族に名を連ねるなら持っておくべきという風潮がある。


「もう手遅れじゃない?」

「普通なら10まで。 加えてハルト様は同世代より大人びた性格をしてますから……はい」


 というわけで今後、俺が魔法を習得する可能性は低い。


「そうか、なら勉強でするかな」

「…………いま、なんと?!」

「失礼な驚き方だな」


 俺は明日から家庭教師を入れることに決めた。 これも全て堕落した生活を送るためだ。


「じゃあ今日のうちに出掛け……るっ!」

「そんなに嫌々どこへ行かれるんですか?」


 俺は実は言うと勉強は嫌いじゃない。 本を読むのも好きだし。

 ただ興味のないことを学ぶのが嫌いで、眠くなるだけだ。


 だから俺の代わりに勉強するやつがいればいいと思うんだ。 出来ないことは出来るやつにやらせればいい。


「スカウトだよ」



「「「よろしくお願いします」」」

「では始めてくれ」 

 

 俺の部屋には三人の奴隷とメイドと家庭教師がいてかなり狭くなっている。

 四人は座って勉強する姿勢だが、俺はもちろんベッドに横たわっている。


 片腕の元戦士、顔に火傷を負った女、大ぐらいのヴァンパイア、この世界では人を買えるが、俺の小遣いだと訳ありしか手が届かなかった。


ーー元戦士は技術が秀でていたわけでもないため指南役も難しいため金貨十枚。


ーー火傷を負った彼女は元の容姿は良かったらしいが、性奉仕を拒んだので金貨八枚。


ーーヴァンパイアは能力は高く、容姿も整っているが、人によっては魔物扱いするし、つい最近殺人事件が起きたため値下がりしていた。 加えて彼女は平均より大ぐらい(血)なので金貨十二枚。


 この三人は俺の奴隷であり、俺の足であり、頭脳であり、もはや俺の一部といっても過言ではない、くらいに育て上げるつもりだ。


 勉強が終わり、メイドが退出したところで俺は秘密の会議を始めた。


「まず一日目おつかれさま、どうだったー?」

「難しかったけど、なんとか。 ところでハルト様は病気かなんかなのか?」


 今もなお横になっているからか、戦士が不安そうに言った。 まあ彼らからしたら俺は雇い主とか親みたいなもんだから、心配になるか。


「いや、至って健康だ。 この方が楽だろう?」

「そ、そうなのか」


 うん、ドン引きされている気配がする。 しかしそんなことはどうでもいい。 それよりも俺は彼らに大事なお話がある。


「さて、俺は未だに魔法が発現していない。 そしてそれも一因だが、実力を父に認められない場合、跡継ぎから外されそうなんだーーだが実は俺、魔法使えます」


 そう、俺は本当は魔法を発現していた。

 しかし説明が面倒すぎて隠していたにすぎない。 あわよくば他の魔法も発現したら、それを報告しようと考えていたが、結局何もなく今に至る。


「それはどんな魔法なの……?」


 三人がごくりと喉を鳴らした気がした。


「それは見た方が早いな」


『記憶の書庫』


 俺は説明するのが嫌だったので、了承もなく魔法を発動した。


 すると意識があるのに、別の場所にいるような、白昼夢を見ているような感覚に襲われる。


 そして目の前には本が整然と並ぶ書庫がどこまでも広がっていた。


「なんだこれ」

「すごい……転移?」

「ここにあるのは俺の記憶、前世の記憶が本となって並んでいる。 君たちにはこれからここで学び、そして俺の頭脳となって俺に楽をさせるんだ」


 ここには見ただけの記憶、忘れ去られた記憶、色々な記憶が上手いこと繋ぎ合わされ本となっている。


 ここの情報は有用だ。

 しかし情報の精査は大変だし、そもそも好きでもないことを学ぶのは自分の記憶でも俺は嫌いだ。


 だから彼らが学んで、理解し、そして結果だけを俺の実績として遂行していく。 それが俺の計画だった。


 だから彼らの容姿も、能力の低さも、醜聞も気にしない。


「まずは科学について知ってもらおうか」


 だけど初めくらいは少し頑張ろう。

 そしたら後は楽ができるはずだから。 俺はそう信じて彼らに地球の常識を教えるべく本を開いたのだった。



 


 


 

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